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武満徹 没後25年を機に魅力に迫る

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没後25年を迎える武満徹
没後25年を迎える武満徹

 2月20日はちょうど武満徹の没後25年目にあたる。その節目に際し、仙台フィルハーモニー管弦楽団では1月から3月の定期公演で武満の初期・中期・後期の作品に取り組んでいる。代表曲「ノヴェンバー・ステップス」で知られる武満だが、手がけた作品は自然を模した音楽から映画音楽やポップスまで幅広い。そこで、愛娘・武満真樹さんのお話を交えつつ、同フィルの1月公演の様子とともに、「武満徹」の魅力の断片に迫りたい。

(正木裕美)

 1月23日、仙台市内で行われた仙台フィルの定期では、鈴木優人の指揮により「夢の時」(1981年作曲)が演奏された。武満の作品には「水」「樹」「鳥」のほか、この作品のように「夢」をテーマにしたものが数多く残されている。中には自身が見た夢をもとに書かれた作品もあるが、「夢の時」についてはオーストラリアの先住民が語り継ぐ一連の物語にインスピレーションを受けて書かれた。物語は神話から生活の指針に至るまで過去と現在を境界なくつなぐものだが、作品ではこれらが具体化することはなく、「短いエピソードが、一見とりとめなく浮遊するように連なる」(武満)のだという。鈴木は強弱と緩急を巧みに繰り出しつつも、しかしバラバラにならずに連関を含ませるような曲づくりで、独特の浮遊感を表現していた。

鈴木優人と仙台フィルによる1月23日の公演
鈴木優人と仙台フィルによる1月23日の公演

 2月13日の定期では、武満が世界的に広く知られる契機となった「弦楽のためのレクイエム」(1957年作曲)を飯守泰次郎の指揮で取り上げる。このレクイエムは作曲家・早坂文雄にささげられた。早坂は黒澤明の「羅生門」をはじめ、当時映画音楽を多く手掛けて活躍。武満はこの16歳年上の早坂を兄のように慕っていたというが、早坂もまたしかり。近代音楽の書き手として前衛的な印象で語られる武満だが、実際は周囲の人々が目をかけ愛する、人間味あふれる人物だったようだ。

 その武満が家族ぐるみで交流を持ったのが、詩人・谷川俊太郎である。3月20日、尾高忠明の指揮で演奏される「系図(Family Tree)——若い人たちのための音楽詩」(1992年委嘱)は谷川の詩集「はだか」の中の六つの詩に基づいており、少女の語りとともに音楽が進行する。武満家と谷川家は真樹さんが「それこそファミリー・ツリーじゃないですけれど、血はつながっていないものの、子の世代もずっと交流は続いています」というほど親密な仲だという。おばあさんの死、おかあさんの不在を不安に思う気持ち——ほのぼのとした家族の系図とはいいがたい詩と音楽の世界観を、武満と谷川の傍らにいた真樹さんならではの視点で語ってくれた。

 「これを書いたときに、家族というのは社会で一番小さい核となる集合体だけれど、その家族が、核が内に向かったら良くない、と谷川さんと父が話していたのを覚えています。家族は一番コアな部分ではあるけれど、一人一人が外に向かわないと利己的になってしまい社会が成り立たなくなると言うんですね。谷川さんはものすごく許容範囲が広いというか受容力がある方なんです。だから家族層っていうドラマで考えると異色かもしれないけれど、逆にそれでもいいじゃないってことなんだと思いますね。サブジェクトになっている『わたし』という人はひとりでも生きていかなきゃいけないし、家族はある意味束縛する存在にもなり得るけれど、家族のおかげで孤独にはならない。でも、人間は所詮ひとり……というクールというか俯瞰(ふかん)しているような目線があるんですね」。だから、語り手には無償の愛を注ぎ注がれる幼児ではなく、物事の酸いも甘いもわかり始めるティーンエイジャーの女の子が指定されているのだろう。

 ちなみに3月の仙台フィルの公演では、エフエム仙台Date fm「hibikuradio」で12月までパーソナリティーを務めた石巻市出身の高平響さんが朗読を担当する。家族の系図を見つめながら未来へと歩み行く少女の心境をどう表現してくれるだろうか。その語りに期待したい。

1月の定期公演で、プレトークに登場した指揮者の鈴木優人(右)と武満真樹さん 拡大
1月の定期公演で、プレトークに登場した指揮者の鈴木優人(右)と武満真樹さん

 ときに作曲家と権威はイコールで語られることもあるが、真樹さんによって語られる武満像は、それとは無縁である。

 「同世代のすばらしい演奏家や指揮者に恵まれて、こんな風にいろいろなところで演奏していただけるようになるとは夢にも思っていなかったのだと思います。2月の《レクイエム》や3月の《系図》も委嘱作品ですが、演奏されるんだということを想像しながら小さな部屋で作曲していた頃と、『これが音になるんだって!』というありがたさはずっと変わらなかった。『これ、だれだれが弾くんだよね!』『これ、どこどこのオケが弾くんだよね。すごいなー!』って思いながら書いていたみたいですよ。」

 今回の特集しかり、没後25年に際して各地で自身の作品が演奏される様子を、武満はどう思うだろうか? コロナ禍でさまざまな制限がある中、残された作品を生で味わえ、作曲家の思いや思考を追体験できることは、それこそ私たちにとっても「すごい」ことなのかもしれない。

公演データ

(終了)1月23日(土)15:00 仙台銀行ホール イズミティ21・大ホール

指揮:鈴木優人

ピアノ:牛田智大

武満徹:夢の時

ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11

ラヴェル:「マ・メール・ロワ」組曲(管弦楽組曲版)、「ダフニスとクロエ」組曲第2番

2月13日(土)15:00 仙台銀行ホール イズミティ21・大ホール

指揮:飯守泰次郎

武満徹:弦楽のためのレクイエム

ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調Op.21

チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調Op.74「悲愴」

3月20日(土)15:00 仙台銀行ホール イズミティ21・大ホール

指揮:尾高忠明

語り:高平 響

武満徹:系図—若い人たちのための音楽詩

エルガー:交響曲第1番変イ長調Op.55

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材、CD解説やインタビュー記事の執筆などを行う。

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