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在京オケ1月の公演から(上) 読響&ヴァイグレ 東京フィル&バッティストーニ

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コロナ禍の陰鬱を吹き飛ばすような熱演を繰り広げたアンドレア・バッティストーニと東フィル 撮影=三浦興一/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
コロナ禍の陰鬱を吹き飛ばすような熱演を繰り広げたアンドレア・バッティストーニと東フィル 撮影=三浦興一/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

 1月に行われた在京オーケストラの主催公演をいくつかピックアップして2回にわたって振り返る。その初回はセバスティアン・ヴァイグレ指揮、読売日本交響楽団の名曲シリーズとアンドレア・バッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会。いずれもシェフの登場で本領発揮ともいうべき高水準の演奏を聴かせてくれた。

(宮嶋 極)

【読売日本交響楽団 第638回名曲シリーズ】

 昨年12月の定期と第9公演を振ってそのまま日本滞在を続けたヴァイグレは、年が明けても東京で大活躍している。1月の読響の定期など主催公演を指揮し、2月には東京二期会オペラ劇場による「タンホイザー」の公演にも登場。3カ月にわたって滞在を続けてさまざまなレパートリーを披露し、読響のポテンシャルを存分に引き出してみせた。

 1月、筆者が取材したのは14日にサントリーホールで行われた名曲シリーズ。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(独奏・藤田真央)とチャイコフスキーの交響曲第4番というロシア・プログラムである。

 このところ各オーケストラから引っ張りだこの人気を博している若手ピアニストの藤田だが、この日も持ち前のしなやかなタッチで難曲をやすやすと弾き進め、叙情的で美しいラフマニノフ像を描き出した。テクニックの確かさと豊かな表現力には目を見張るものがある。洗練されたピアノであったが、筆者はロシア音楽特有のどこか泥臭いまでの素朴さや荒々しさの要素も加わっていたら演奏にさらなる深みが増したのではないかとも感じた。

 後半のチャイコフスキー第4番。昨年、最初の緊急事態宣言が解除となり東京で演奏会が再開されて以降、なぜか各オケでこの曲が取り上げられる機会が多いように感じる。実際、筆者がこの間に聴いたのもこれが3回目となる。同じ曲を短期間に続けて聴くと指揮者やオケの個性の違いがより鮮明に伝わってくるから面白い。

 ヴァイグレは流れに任せて音楽を進めることをせずに、ひとつひとつのフレーズを丁寧に処理し、音量のコントロールを細部にわたって徹底することで、旋律美を際立たせる音楽を作り出した。弦の編成は14型。金管楽器との音量バランスが巧みに調整されており、過不足を感じさせる場面はなく、オケ全体としてはよく鳴っていた印象。指揮者と波長が合った時、オーケストラはより豊かな響きを創出するものである。この日の読響もまさにこれに当てはまるだろう。なお、この日のコンサートマスターは長原幸太が務めた。

3カ月にわたり読響のプログラムを振り分けたセバスティアン・ヴァイグレ (C)読売日本交響楽団
3カ月にわたり読響のプログラムを振り分けたセバスティアン・ヴァイグレ (C)読売日本交響楽団

【東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会】

 東京フィルも首席指揮者バッティストーニが登場し、燃焼度の高い熱演を披露した。取材したのは22日、サントリーホールにおける公演。

 プログラム誌に掲載されたバッティストーニのインタビューを読むと彼は「(新しいシーズンは)1月に“バレエ・リュスの宵”でスタートします。私の好きな2つのバレエ作品〝ダフニスとクロエ〟と〝火の鳥〟に焦点を当てます。どちらも再生、新しい夜明け、新しい太陽が生命を吹き込み、祝福をもたらす音楽です」とコロナ禍においてこれらの作品を取り上げる思いを語っている。

 その言葉通り生命力にあふれた音楽作りで、聴く者に元気を与えてくれる熱い演奏が繰り広げられた。こちらもオーケストラはよく鳴っていた。さすが首席指揮者のタイトルを持つマエストロである。オーケストラを自在にドライブしていることが伝わってくる。

 聴いていて気になったので、確認してみるとこの日演奏されたバレエ音楽はいずれも1910年代に作曲あるいは初演された作品であった。1910年代といえば、第一次世界大戦のさなか、人類が約1世紀前に経験したスペイン風邪(インフルエンザ)の大パンデミックの時期(1918年~)に重なる。そんな時に作られた音楽がコロナ禍に苦しめられている21世紀の私たちに「人類は100年前のパンデミックも克服した。今回も必ず再生と新しい夜明けが訪れる」と訴えかけてくるように感じられたのだ。バッティストーニも同様の思いでこの曲に向き合っていたことは想像に難くはない。理屈を超えて胸を熱くしてくれるような演奏会であった。コンサートマスターは近藤薫で指揮者の棒に応えて全力の演奏ぶりでオケを引っ張っていた。

 なお、2度目の緊急事態宣言を受けてこの日は休憩を取らずに3作品が続けて演奏された。(セット替えのインターバルはあり)

バッティストーニの東フィルへの登壇は1年ぶり 撮影=三浦興一/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
バッティストーニの東フィルへの登壇は1年ぶり 撮影=三浦興一/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

公演データ

【読売日本交響楽団 第638回名曲シリーズ】

1月14日(水)19:00 サントリーホール 

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

ピアノ:藤田真央

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30

チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調Op.36

【東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会】

1月22日(金)19:00 サントリーホール 24日(日)オーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ

ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第1組曲

ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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