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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/70 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 ――へえ、評判がよくないって、どんなふうによくなかったんですか、と竜介は言った。何か悪いことでもしたんですか。

 ――うーん、どうだったんだろう。何だか子供のころから振る舞いがひどく粗暴だったという話でね……。いやあ、こんなこと言っていいのかな。

 ――いや、ぜひ聞かせてください。

 ――学校にもろくに通わなかったり、悪い連中と付き合ったり。まあそう言っちゃなんだが、町内の鼻つまみ者だったらしい。しまいには上田にいられなくなって、上京して、一人で人生を切り拓(ひら)かなくちゃならないことになったらしい。いや、前にも言ったと思うけど、おれはその人に会ったことは一度もないんだ。何しろ戦後、その岳史さんが亡くなった後で、きみのお祖父(じい)さんから聞いた話しか知らないんだから。

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