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東日本大震災

2011年3月11日に発生した東日本大震災。復興の様子や課題、人々の移ろいを取り上げます。

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「原子力ムラ」と闘った元官僚 バイオジェットで描くエコな未来とは

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グリーンアースインスティテュートの伊原智人社長。奥は国産バイオジェット燃料を使った国内初飛行に臨む日本航空の旅客機=羽田空港で2021年2月4日午後0時17分、丸山博撮影
グリーンアースインスティテュートの伊原智人社長。奥は国産バイオジェット燃料を使った国内初飛行に臨む日本航空の旅客機=羽田空港で2021年2月4日午後0時17分、丸山博撮影

 冬晴れの青空が広がった2021年2月4日。日本航空(JAL)のジェット機が羽田空港を飛び立ち、ぐんぐん高度を上げていった。機体は普段と同じだが、実は燃料には、古着を利用した国産初のバイオ燃料が混入されていた。燃料製造に協力したベンチャー企業を経営するのは伊原智人さん(52)。かつて国家公務員として脱原発政策を進め、「原子力ムラ」から繰り返し反発を買った人物だ。日本のエネルギー政策の変革は、今もあきらめておらず、再生エネルギーを利用した新たな挑戦に乗り出した。【岡大介/統合デジタル取材センター】

 「大きな一歩になると思います」。2月4日午後1時前、羽田空港の福岡行きの定期便搭乗口で、伊原さんは笑顔を見せた。

 国産バイオ燃料を利用した初の飛行は、伊原さんが社長を務めるバイオベンチャー「グリーンアースインスティテュート(GEI)」(東京都)など複数社がJALに協力して実現した。全国から不要になった古着25万着を回収し、その綿から作ったバイオ燃料を製造。既存のジェット燃料と混合した。新型コロナウイルス感染拡大で航空業界が大打撃を受ける中、フライトの日程はなかなか決まらなかったが、ついに定期便に使われた。

 現在はベンチャー企業を営む伊原さんだが、かつてはキャリア官僚だった。それも異例の2度にわたり……。

若手官僚時代、原子力ムラに突きつけた「怪文書」

 伊原さんは、父親が転勤族だったため香川、宮城、愛知県を転々とした後、東京大に入学。中高大とハンドボールに打ち込んだ。

 バブル真っ盛りの1990年春、大手都銀と通産省(現在の経済産業省)の内定を得たが、「幅広い行政課題にかかわれそう」と官僚の道を選んだ。

 主に情報関連の部署を歩み、同じく情報・通信行政を担った旧郵政省との間で折衝や権限の奪い合いに追われた。比較的順調に官僚街道を歩んでいたが、「性に合わない」と当時始まったばかりの官民の人事交流に手を挙げ、01年にリクルートへ出向した。

 2年後の03年6月経産省に戻り、エネルギー関連の部署に就き、そこで運命が大きく変わった。業界について勉強する中、「核燃料サイクル政策」に疑問がわいた。原発での発電に用いた使用済み核燃料を「再処理」してウランやプルトニウムを回収し、再び核燃料として利用する計画のことだ。56年に「原子力長期開発計画」の中で位置づけられ、エネルギー資源の乏しい日本にとっては切り札になると期待されたが、着手から数十年過ぎても実現のめどが全く付いていなかった。

 核燃料サイクルは、技術やコスト面の問題から欧米の多くの国が90年代には見切りを付けていた。国内の大手電力会社も経産省も、実は止めたがっているのではないか、と伊原さんは感じていた。事実上、政策は破綻しているのに、「どちら側も責任を取るのがいやで言い出せない状態だった」

 日本の原子力行政は、国がレールを敷く一方で、表向きには大手電力会社が自主的に取り組む形の「国策民営」で進められてきた。責任の所在があいまいになり、後ろ向きの決定が取りにくい構造になっていた。それでも、青森県六ケ所村にある再処理工場の建設に巨費がつぎ込まれていた。

 「これでは後世につけが回るだけだ」。意見を同じくする経産省の若手官僚6人で、夜な夜なファミリーレストランに集まり、議論を重ねた。2カ月がかりで、A4で25ページにわたる文書を作成。タイトルは「19兆円の請求書」とした。再処理工場の建設を続ければ、関連経費が膨らみ、19兆円もの国民負担が将来生じる、と試算したものだった。03年秋ごろから、伊原さんら有志は、この文書をもとに、理解を示してくれそうな与野党の政治家、メディアの記者を一人ずつ訪ね、考えを訴えた。

返り討ちに遭うも、原発事故を機に2度目の国家公務員に

 伊原さんら有志の訴えは当初、あまり注目されることはなかったが、やがて電力業界の怒りを買うことになる。04年春、大手経済紙の論説委員などが集まる場で「19兆円の請求書」を配って解説したところ、これがすぐに業界の知るところになっ…

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