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在京オケ1月の公演から(下) NHK交響楽団

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ファンホ・メナが4年ぶりにN響のステージに上がったNHKホール公演 写真提供:NHK交響楽団
ファンホ・メナが4年ぶりにN響のステージに上がったNHKホール公演 写真提供:NHK交響楽団

 1月に行われた在京オーケストラの主催公演のレビューの後編は、NHK交響楽団の定期公演に代わる「1月公演」から。スペイン・バスク地方出身のファンホ・メナが指揮台に立ったNHKホール(1月16、17日)と鈴木優人が登場したサントリーホール(27、28日)の演奏会を振り返る。

(宮嶋 極)

【N響1月公演 NHKホール】

 NHKホールの公演を指揮したファンホ・メナはスペインとフランスにまたがるバスク地方のスペイン側で生まれた指揮者。20世紀の巨匠セルジュ・チェリビダッケの指導を受けたことでも知られ、最近はベルリン・フィルやシカゴ響などの欧米の名門オーケストラに客演を重ねるなどの活躍を続けている。N響とは2017年1月定期公演以来、2度目の共演となる。前回と同じくメナのルーツを反映したスペイン、フランス作品のプログラムが組まれた。

 フランスの作曲家で指揮者としても名をはせたピエルネの「ラムンチョ」序曲。バスク地方を舞台に展開される演劇の付帯音楽であるが、冒頭のはじけるような和音に思わずハッとさせられた。明るく開放的でバスクの雲ひとつない青空を連想させるような響きであった。N響がこうした多彩な音を出せることをコロナ禍の特殊な状況が続くうちに忘れていた。メナのキャラクターによってその潜在能力が引き出されたのだろう。思い返せばシャルル・デュトワが音楽監督だった時代、N響はしばしばこうしたサウンドを紡いでいた。当時在籍したメンバーは少なくなったものの、楽団のDNAとしてしっかりと受け継がれていることが、この日の演奏から知ることができた。

 後半、ラヴェル「ダフニスとクロエ」の色彩感にあふれた音作りにも同じことがいえる。指揮者(画家)がオーケストラというパレットに載る音(絵の具)をいかに選択し、どのように調合するかによって全体の印象はガラリと変わる。第2組曲「夜明け」では管楽器の響きがデリケートに移ろい、次第に輝きを増していくさまが美しかった。

 2度目の緊急事態宣言などで、海外アーティストの来日が再び難しくなっている。この日、メナがN響から導き出したサウンドに接して、音楽に限らず芸術における国を超えた多様性がいかに重要であるかを再確認させてくれる演奏会となった。コンサートマスターは白井圭。

鈴木優人の弾き振りによるバッハのブランデンブルク協奏曲ではバロック・オケさながらの立奏が取り入れられた 写真提供:NHK交響楽団
鈴木優人の弾き振りによるバッハのブランデンブルク協奏曲ではバロック・オケさながらの立奏が取り入れられた 写真提供:NHK交響楽団

【N響1月公演 サントリーホール】

 サントリーホールの公演で指揮台に立ったのは鈴木優人。N響の昨年10月公演では父でバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)音楽監督である鈴木雅明が3プログラムすべてを指揮して注目を集めたばかり。コロナ禍で海外アーティストの来日が難しい状況が続き、鈴木親子も国内で大活躍している。それだけに時を少し空けての〝N響父子競演〟は面白い。これもコロナ禍だからこそ実現した興味深い巡り合わせといえよう。客席には父・雅明の姿もあった。息子の晴れ姿を見たかったのか、それとも同業のライバルとしてその仕事ぶりが気になったのか、いろいろと想像を巡らせてしまった。

 プログラムはかつて「ドイツ3大B」ともいわれた(最近はこうした言い方は少なくなった)バッハ、ベートーヴェン、ブラームスの作品。バッハのブランデンブルク協奏曲では鈴木がチェンバロを弾き振りし、オケは全員立奏というバロック・オケのようなスタイルを取った。アーティキュレーション(音と音のつなげ方)やアクセントの付け方も近年の研究に基づく要素を多分に反映させており、聴こえてくる音もバロック・オケに寄せた雰囲気であった。そしてメンバーが皆、楽しそうに鈴木の描こうとする旋律線に合わせるように体を動かしながら演奏していたのも好感を持てた。

 ベートーヴェンの序曲「コリオラン」はヴィブラートを抑え気味にし、バロック・ティンパニを使うなどピリオド(時代)奏法の要素を自然な形で取り入れていた印象。

 後半のブラームスの交響曲第1番は重厚な響きの構築ではなく、構成感を明快に提示していくスタイル。20世紀のブラームス演奏の慣習にとらわれないシンプルな音作りが、この作品の堅固な構成美をくっきりと浮かび上がらせた。コンサートマスターは篠崎史紀、第2楽章では安定感のあるソロを披露し終演後、大きな喝采を集めていた。

公演データ

【N響1月公演 NHKホール】

1月16日(土)18:00、17日(日)15:00 NHKホール 

指揮:ファンホ・メナ

ピアノ:ハビエル・ペリアネス

ピエルネ:「ラムンチョ」序曲

ファリャ:交響的印象「スペインの庭の夜」

ヒナステラ:バレエ組曲「パナンビ」作品1a

ラヴェル:「ダフニスとクロエ」組曲 第1番、第2番

【N響1月公演 サントリーホール】

1月27日(水)19:00 、28日(木)19:00 サントリーホール

指揮&チェンバロ:鈴木優人

バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1番ヘ長調 BWV1046

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」Op.62

ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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