日経平均株価が30年半ぶりに3万円の大台を超えた。バブル景気以来の高水準である。
新型コロナウイルス禍に苦しむ日本経済の実態を反映していないのは明らかだ。
昨年の実質国内総生産(GDP)は4・8%減と、リーマン・ショック以来の大幅なマイナス成長に陥った。今年1~3月期もマイナスになるとの予測が大勢だ。
それでも株価が高騰したのは、日銀の大規模な金融緩和などで巨額資金が株式市場に流入したためだ。景気の実態以上に株価を押し上げる「カネ余り相場」である。
懸念されるのは格差の拡大だ。
株高は株を多く持つ富裕層をさらに豊かにする。首都圏マンションの販売価格はバブル期に次ぐ水準だ。「カネ余り」といっても、恩恵を受ける人は限られ、多くの国民は実感を持てずにいる。
コロナ禍の影響は弱い立場の人に集中している。昨年、休業や廃業を余儀なくされた飲食店や小売店などは約5万件と過去最多だった。そうした職場で働く非正規労働者は解雇される人が相次いだ。
深刻な格差を放置したままでは、社会が不安定になり、景気の立て直しもおぼつかない。政府は暮らしに窮している人たちへの支援を拡充すべきだ。
株高の反動も心配だ。
株価は「経済の体温計」と呼ばれる。本来は、経済や企業の健全な成長の結果として、安定的に上昇するのが望ましい。
だが、今回はコロナ禍なのに、「金融緩和がまだ続くから株を買い進めても安心」といういびつな心理が株式市場に広がっている。ワクチンの開発も株を買うのに都合のいい材料とみなされている。
上昇ペースも速すぎる。急騰するほど暴落の恐れも高まる。バブル崩壊時のように株式市場が混乱すると、経済全体に波及し、弱い立場の人への打撃も深刻になる。
当局は過熱を警戒する必要がある。日銀は昨年、コロナ禍で急落した株価の下支え策として上場投資信託を大量に買う異例の対応に踏み切った。ここまで株価が上昇した以上、抑制が求められる。
米国の株価も過去最高値を更新するなどカネ余り相場は世界に広がっている。主要国は市場の安定の重要性を確認すべきだ。