認知症の人の移動、同行して支援 社会参加へボランティア養成へ

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若年性認知症で働き続ける森由美子さん(左)に「頑張っていこうね」と語りかける夫正和さん=大阪府河内長野市で2020年12月2日午前11時55分、野口由紀撮影 拡大
若年性認知症で働き続ける森由美子さん(左)に「頑張っていこうね」と語りかける夫正和さん=大阪府河内長野市で2020年12月2日午前11時55分、野口由紀撮影

 認知症の人たちの移動支援に、大阪府内の団体が乗り出す。特に65歳未満で発症した若年性認知症の場合、仕事を続けるなど本人の社会参加を維持するには、目的地への移動を保障することが鍵だが、公的な支援制度は整っていない。団体はある家族との出会いを通じて「制度の穴」を実感。自宅から目的地への移動に同行する「認知症移動支援ボランティア」を養成することにした。

大阪の団体、生きがいの仕事をサポート

 団体は公益社団法人「認知症の人と家族の会」府支部(大阪市天王寺区)。2020年4月、介護の悩みや知恵を共有する府支部主催の「つどい」に、若年性認知症で介護助手として働く森由美子さん(58)の夫正和さん(57)と長女真由美さん(34)が参加した。2人が切々と訴えたのは、由美子さんの通勤を支援する負担の重さと、生きがいである仕事を続けてもらいたいという思いとの葛藤だった。

若年性認知症で働き続ける森由美子さん(中央)と手をつなぐ夫正和さん(左)と長女真由美さん=大阪府河内長野市で2020年12月2日午前11時56分、野口由紀撮影 拡大
若年性認知症で働き続ける森由美子さん(中央)と手をつなぐ夫正和さん(左)と長女真由美さん=大阪府河内長野市で2020年12月2日午前11時56分、野口由紀撮影

 血圧や体温の正常値がわからなくなる。患者の体を清潔にするケアの手順を忘れる。勝手知ったる職場で迷子になる――。35年以上、看護師として大阪市内の病院で働いてきた由美子さんにそんな異変が現れるようになり、18年3月、若年性のアルツハイマー型認知症と診断された。

 半年間の傷病休暇を取った後に同年9月、看護師ではなく、介護助手として同じ病院での勤務に復帰した。家族は働け続けられるのか迷ったが「働きたい」という由美子さんの意思は強い。病院幹部が「認知症だからと諦める社会になってはいけない」と背中を押してくれた上での決断だった。電車で片道約1時間半の通勤を1人でこなしていたが、新型コロナウイルスの影響が及ぶ。昨年3月ごろから、正和さんらに「道がわからない」と頻繁に電話がかかってくるようになった。ちょうど感染が広がり始めたころ。電車が混雑していないなど風景の変化が混乱をもたらしたとみられる。

 電話が鳴る度、正和さんらが仕事を切り上げて迎えに行くようになった。看護師として働く真由美さんが勤務時間外に向かうことも。由美子さんは精神障害者保健福祉手帳を取得しており、家族は移動のための公的な支援がないか探したが見つからない。体が動くため、介護保険も利用していない。

移動支援への公的支援にばらつき

 厚生労働省によると、障害福祉分野で市町村の「移動支援事業」があるが、利用対象者や目的にはばらつきがある。通勤を対象にする市町村もあるが、通勤経路を覚えるためや緊急時などの要件がある。介護保険では訪問介護のサービスに「通院・外出介助」があるが、通勤は想定されていない。

 由美子さんが1人で通勤できなくなり、正和さんは昨年4月から行き帰りの付き添いのため休職している。河内長野市の自宅から駅まで約400メートル、電車に乗って約40分、そして駅から勤務先まで約400メートル。「妻にとって仕事は自分の魂。辞めてしまうと余計混乱してしまう。公的な移動支援があれば」と語る。由美子さんは患者の食事介助やおむつ交換などに携わっており、「患者さんから『ありがとう』と言われるとうれしい」と働く喜びを感じている。

 家族が踏ん張らざるを得ない現状を知った府支部は、外出支援をする「認知症移動支援ボランティア」育成を企画。今年2月から育成講座を開催することになった。認知症の人や家族の思いから、自覚症状を言葉にできない場合の体調確認、移動介助の具体的な方法などを、医療や介護の専門家から学び、実習もする。府支部の神垣忠幸代表は「森さん家族の話を聞き、何か支援できないかと考えた。ボランティアを養成し、社会全体で認知症の人の外出を支えたい」と語る。

 講義は2月20、21日に大阪市中央区のドーンセンターで。参加費は大人1万円、学生4000円。問い合わせは府支部(06・6626・4936)。【野口由紀】

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