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サウナ愛好家(サウナー)の間で“聖地”と呼ばれる熊本市の温泉施設「湯らっくす」が、同市のアパレルブランド「ファクトリエ」と共同で製作したサウナー向けの「ととのいタオル」が話題となっている。語呂合わせから「お風呂の日」の2月6日に発売し、早くも200枚を突破した。「コロナ禍でもサウナ気分を」――。人気沸騰の秘訣(ひけつ)と、商品誕生に至るサウナーたちの熱い思いとは。
「『ととのわせたタオル』なんて面白いんじゃないですか」。1月上旬、ファクトリエの山田敏夫代表(38)が高校時代から20年来客として通っていた湯らっくすの西生吉孝社長(52)との会話で、コラボ商品の企画が持ち上がった。熱心なサウナーでもある山田代表は、コロナ禍で打撃を受ける施設を支援しようと提案した。
1993年創業の湯らっくすは、2016年の熊本地震を機に大規模改修し、3種類のサウナを新設。サウナ内で従業員がタオルを振り下ろして熱波を送る「アウフグース」や、男湯は水深171センチの「日本一の深さ」を売りにした水風呂が人気で、サウナーの間では東の聖地・静岡県の「サウナしきじ」と並び、「西の聖地」と呼ばれる。
そんな聖地にも、新型コロナウイルスの感染拡大が影を落とした。施設は国の緊急事態宣言発令直後の20年4月8日から5月下旬まで休業。もともと県外からの入浴客も多かっただけに、再開後は客数、売り上げとも前年同期比で半分程度まで落ち込んだ。
サウナ→水風呂→休憩を繰り返す中で得られる恍惚(こうこつ)とした状態を、サウナ用語では「ととのう」と表現する。ヒンズー教徒が「聖なる川」とあがめるインドのガンジス川で、巡礼者が沐浴(もくよく)すると「身が清められる」と信じられていることに着想を得て、聖地のサウナで実際にととのわせたタオル製作のアイデアを形にした。
1月下旬、ファクトリエがツイッター上でタオルのデザイン案を募集。最終4候補の中から一般投票で選ばれたのは、熊本市中央区の吉田潤平さん(40)の湯らっくすの外観を描いた作品だ。周辺に渋滞ができるほどの人気だった湯らっくすが、20年5月の臨時休業後初の営業日、駐車場に車が1台もない様子に衝撃を受けて撮った写真をイラストにした。
吉田さんも市中心部でバーを経営。店もコロナ禍の打撃で客足が鈍り、これまで週3、4回のペースで通っていた湯らっくすの状況も人ごととは思えなかった。吉田さんは「今は遠方から来られない人もタオルを眺めて、湯らっくすを訪れた気分になってくれたら」と、熱いエールをデザインに込めた。
2月19日午前8時すぎ。清掃のため入浴客がいないサウナ室に真新しい白いタオルが並べられた。スタッフが別のタオルで約10分間熱波を送ると、室温は90度近くまで上昇。ほてったタオルはそのまま水温15度の水風呂へ入った。毎分250リットル、滝のように流れ落ちる熊本の地下水に1分ほどさらして生地を引き締める。さらに5分ほど外気浴した後にしっかりと乾燥させる。こうした工程で完成させたのが「ととのいタオル」だ。
使われるタオルは、1912年創業の熊本の老舗メーカー「九州ツバメタオル」(同県美里町)製。サウナに入れる前のサイズは縦34センチ、横91センチだが、ととのわせると縦1センチ、横5センチ程度縮む。綿100%で、吸水性に加え、水がしたたり落ちにくい適度な厚さ、頭に巻いても耳まで隠れる長さなどにもこだわった。
2月28日までの完全受注生産で、1枚1430円(税込み、送料別)。ファクトリエのウェブサイトで購入できる。商品の発送は4月上旬の予定。サウナーでファクトリエ熊本本店の小林正樹店長(38)は「コロナ禍が落ち着いた時、またサウナに行きたい気持ちを高められる一枚になれば」。漫画やドラマをきっかけに熱気冷めやらぬサウナブームを熊本の聖地からも盛り上げている。【清水晃平】