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日本文化をハザマで考える

日本文学研究家のダミアン・フラナガンさんが、日英の「ハザマ」で日本文化について考えます。

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日本文化をハザマで考える

第33回 金沢賛歌 日本の心は地方に宿る

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金沢に住んでいたクリフトン・カーフの自画像=ダミアン・フラナガン撮影 拡大
金沢に住んでいたクリフトン・カーフの自画像=ダミアン・フラナガン撮影

 私のアメリカ人の友人、デビッド・ジョイナーが今年、「金沢」という題名の本を英語で出版するそうで、私はとても楽しみにしている。

 日本が歴史的には、ほぼ独立していた多くの地域から成り立っていたということが、世界ではほとんど知られていない。山脈によって隔てられたそれらの地域は、自身の伝統、食文化、方言、そして有力氏族を培ってきた。

 実際、真に日本を理解するには、このさまざまな地域差を把握しなければならない。地方都市は、東京を中心とした関東や、京都・大阪のある関西に従属する、二流の都市だと海外では思われることもある。しかし、イタリアの都市と同じように、日本の地方都市は、自身がその文化圏の中心に位置する太陽のような存在であると理解したほうが正しいと思う。

 2年前、富山での講演を終え、日本アルプスに沿って旅行した帰路、金沢にいる友人のデビッド・ジョイナーを訪ね、飲みにでも行こうと思った。ひどく寒い2月の夜で、記録的な積雪でJR特急サンダーバードすら運休していた。雪に覆われた裏通りを苦労して歩き、浅野川の水を見下ろす日本料理屋でデビッドに会った。

 彼は米オハイオ州シンシナティの出身だが、何年かベトナムに住んだことがあり、最初の小説はベトナムを舞台にしていた。しかし2、3年前に金沢近郊の山村にあった崩れかかった日本家屋を購入した。彼は、西洋の作家が飽きもせずに京都のことばかり書いているのにうんざりして、かつては裕福な加賀藩の首都で、りっぱな城と庭園を誇っていた金沢の独特な雰囲気と芸術的な伝統を映し出す本を書きたいと思ったらしい。

 その日本料理屋にあった、石川県産の酒をすべて試した後で、デビッドが金沢の文学と歴史の真夜中のツアーに私を案内してくれると言うので、雪の深い通りへと繰り出した。美しい川に沿って、小説家の泉鏡花や徳田秋声の家、そしてあの芭蕉が泊まった家などを通り過ぎた。詩人の室生犀星も金沢出身であり、フィンランド系アメリカ人のクリフトン・カーフもかつて、金沢に住んでいたそうだ。金沢がこれほど多くの有名な文学者を育んだとは、私には意外だった。

雪景色となった兼六園=金沢市兼六町で2020年12月、井手千夏撮影 拡大
雪景色となった兼六園=金沢市兼六町で2020年12月、井手千夏撮影

 翌日、私は日本三名園の一つの兼六園を再訪した。しかし、そこは30センチはありそうな雪に埋もれていた。

あかあかと日はつれなくも秋の風

 「奥の細道」の芭蕉が、金沢でこの句を詠んだのは、残暑も厳しいながら、風にかすかに秋の気配を感じられる頃だった。私が訪れたその日には、赤々と容赦なく照らす太陽はなかった。私は季節に合うように少し芭蕉の句を修正させてもらった。

しろじろと日は見えなくも春の風邪

(周りは真っ白な雪に覆われ、日は雲に隠れて見えない。おまけに春の風邪をひいてしまった。)

 芭蕉の有名な奥の細道の旅は、おそらく、一つの文化圏を形成する地方からもう一つへと、日本の多彩な地方を発見する旅であったのだろう。

 芭蕉は偉大なる芸術と文化を掘り起こすには、時には首都を離れて田舎道を歩かなければならないと理解していたに違いない。

@DamianFlanagan

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