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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「世の中は諸事御尤ありがたい御前御機嫌さておそれいる」…

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 「世の中は諸事御(しょじご)尤(もっとも)ありがたい御前御機嫌(ごぜんごきげん)さておそれいる」。江戸時代の役人のごますりやご機嫌取りの処世を風刺した狂歌である。御前は殿様か、上司か。今なら近年の政権トップの顔が浮かんでくる▲はて、これも「御前」のご機嫌を損ねたくない役人たちの大量参集なのか。総務省幹部が放送関連会社に勤める菅義偉(すが・よしひで)首相の長男の接待を受けていた問題で、同省は今までに計13人が延べ39回にわたり会食に参加していたと発表した▲この問題では週刊文春が公開した録音と食い違う国会答弁をした局長らがすでに更迭されている。同省は24日にも国家公務員倫理規程違反で該当者を処分する予定だが、近年めったに聞かぬみごとな癒着ぶりにはあぜんとさせられる▲当の長男は首相の総務相時代に政務秘書官に起用され、後に総務省が主管する放送関連業界に転じた人物だった。役人たちが同省人事に影響力をもつ首相へのそんたくから接待の席に赴いたであろうことは、江戸の狂歌師でも分かる▲前政権の森友問題とも相似形をなす「御前」への役人たちの迎合だった。行政の決定はそれによりゆがめられなかったのか。国の統治組織から合理性を奪い、江戸時代のそれへと先祖返りさせるネポティズム(縁故主義)の毒である▲時代に合わぬ役人を詠んだ江戸狂歌もある。「世にあわぬ武芸学問御番(ごばん)衆(しゅう)のただ奉公に律儀(りちぎ)なる人」。武芸や学問、まじめに奉公する武士は当世風ではないという。「奉公」は今なら公への奉仕と解釈していい。

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