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余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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俳優の高倉健さんが…

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 俳優の高倉健さんが台本に一枚の報道写真を貼り付けていたことはよく知られている。がれきの中、口を固く結び、水を入れた重いペットボトルを運ぶ少年。東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県気仙沼市で撮影された▲高倉さんは少年に手紙を送った。「常に被災地を忘れないことを心に刻もうと(映画の)撮影にのぞんでいました」。少年はどれほど励まされたことか。当時10歳。大人になる10年の歳月が流れた▲写真家・長倉洋海(ひろみ)さんも2011年9月から4カ月、東北3県で子どもたちの日常を撮影した。写真集は、話してくれた言葉とともに構成されている。悲しみやせつなさの中でも希望の光が伝わる▲「わたしのゆめは、かいごしです。なぜかというと、ひさいして、きずついたおとしよりのみなさんをいやしてあげたいからです」(11歳女子)「ぼくのしょう来のゆめは大工さんです。理由は、しん災でこわれた家を建て直したいからです。(略)家を引きわたす時の笑顔が何よりうれしいと思うからです」(9歳男子)▲長倉さんの心に残ったのは、子どもたちのはじけるような笑顔と伸びやかな笑い声だ。「それを消さないようにしなければならない。笑顔に励まされ、生きる力をもらうのは私たちなのですから」。高倉さんもきっと、あの少年の写真から力をもらったのだろう▲被災地の困難は今も続く。けれど大人になった彼らがこれからの復興を支えるに違いない。写真集の題名は「だけど、くじけない」。

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