儒教の祖・孔子を祭る「孔子廟(びょう)」の用地を那覇市が無償提供しているのは、政教分離の原則を定めた憲法に違反するとの判断を最高裁が示した。
政教分離は、国や自治体が宗教と結びつかないことを指す。憲法20条は国による宗教的な活動を、89条は宗教団体に公の財産を提供することを禁止している。
判決は、市が土地使用料を全額免除しているのは、特定の宗教を優遇しており、宗教的活動に当たると認定した。政治と宗教の関わりについて、厳格な判断を示したと言える。
建物などの配置や参拝の状況から、社寺との類似性を認めた。祭礼も宗教的な意義を持っており、施設には宗教性が認められると指摘した。
無償提供する土地の広さも問題視した。歴史的な価値や観光資源としての役割を考慮しても、市と宗教との関わり合いが限度を超えていると結論づけた。
神社への市有地の無償提供を違憲とした2010年の「空知太(そらちぶと)神社訴訟」の最高裁判決で、「施設の性格や無償提供の経緯、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきだ」との枠組みが示されている。これにのっとった判断だ。
中国から伝わった儒教は、宗教よりも学問や道徳として位置づけられてきた面がある。江戸時代には、幕府が封建制度を維持するために一流派の朱子学を奨励した。
このため、孔子廟は各地に設けられており、史跡や文化財に指定されているものもある。東京の湯島聖堂や栃木県足利市の足利学校などは、国や自治体が建物や敷地を所有している。
今回は儒教そのものが宗教に当たるかどうかの判断は示していない。ただ、各地で施設のあり方の見直しを迫られる可能性がある。
憲法の政教分離の規定は、戦前に国家と神道が結びついて軍国主義に利用され、戦争に突き進んだ反省に基づいて設けられた。
判決は、神道に限らず宗教性が認められれば、憲法に抵触しかねないとの考えを示している。
公有地に建つ戦争や災害の慰霊施設が、宗教性を帯びているケースも少なくない。今後の影響を注視する必要がある。