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眼球には異常がないのに、まぶしさや痛みで目が開けられない「眼球使用困難症候群」に苦しむ男性が、その生活の様子などをユーチューブと音声配信アプリ「stand.fm」で発信している。男性は「一日中暗い部屋での生活を強いられ、死のうと思ったこともありますが、今は、きょう一日笑えればいいと思って生きています。動画を見て病気のことを知ってもらい、コロナ禍で落ち込んでいる人の励ましにもなれば」と話している。【野村房代/統合デジタル取材センター】
男性は千葉県佐倉市に住む木下住男(きのした・すみお)さん(32)=ペンネーム。約1年前から光や音が不快に感じるようになり、次第に外出することも、明るい部屋にいることもできなくなった。現在は、雨戸と遮光カーテンで閉め切った自室か、暗幕を張ったリビングのソファの上で生活している。さらに、アイマスクが24時間手放せないという。木下さんは「症状が出る数カ月前、眠れなくなって睡眠導入剤を服用してから、まぶしさなどの不調が出るようになった」と話す。
心療内科や脳外科を受診しても原因がわからず、半年後に受診した神経眼科でようやく「眼球使用困難症候群ではないか」と指摘された。眼球使用困難症候群は、眼球に異常がないのにまぶしさなどで目が使えない症状の総称で、2017年に井上眼科病院(東京都千代田区)の若倉雅登名誉院長(神経眼科)が提唱した。若倉医師によると、脳の機能異常が原因と考えられ、抗不安薬や睡眠導入剤の服用が影響して発症したとみられるケースも多いという。
症状が出る以前は、バックパッカーとして世界中を旅していた。カナダ、インドネシア、オーストラリア、南米……訪れたのは十数カ国。「地球の裏側にいた人間が、今では近所の公園すら行けないなんて、皮肉ですよね。一時は自殺も考えました」と打ち明ける。だが旅先で知り合った各国の友人たちが木下さんの現状を聞きつけ、ユーチューブや音声配信アプリでの発信を提案してくれた。友人が暗所で撮影できるカメラをプレゼントしてくれて、動画の編集作業も手伝ってくれている。
1月末に開設したユーチューブのチャンネル名は「ソファの上の冒険 with banana」(https://www.youtube.com/channel/UCWRHWZd3vNzlBJy6o4XwYVQ)。「コロナ禍がなければ数年かけてユーラシア大陸を横断するつもりだった。でもソファの上からでも、これまで旅した世界のことを語ることはできると思ったんです」と木下さん。
動画では「木下住男」と名乗り、明るい表情で滑らかに、症状の説明や旅の体験などを語っている。「一緒に住む家族や遠く離れた友人たちのお陰で、笑えるようになった。こんな状況でも笑っている人間を見て、コロナ禍で落ち込んでいる人や悩んでいる人を少しでも励ますことができればうれしいです」と話す。音声配信アプリ「stand.fm」では「ソファの上の冒険 without banana」というチャンネル名で毎日発信を続けている。