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生活保護で違法判決 社会の命綱軽視への警鐘

 国による生活保護基準額の引き下げを違法とする判決を大阪地裁が出した。厚生労働相の裁量権について逸脱や乱用があったと指摘し、これに基づいた自治体の減額決定を取り消した。

 同種の訴訟は全国29地裁で起こされ、判決は今回が2例目だ。昨年6月の名古屋地裁判決は厚労相の裁量権の範囲であるとして請求を棄却していた。大阪地裁は反対に、判断の過程や手続きに過誤や欠落があったと指弾した。

 問題になったのは生活保護費のうち食費や光熱費など日常生活に充てる「生活扶助」だ。国は物価下落を考慮して2013年から15年まで最大で10%引き下げた。

 この「デフレ調整」について大阪地裁は二つの点を問題視した。

 まず、原油や穀物の価格が高騰した08年を物価の算定の起点としたことだ。この結果、翌年以降の物価下落率が著しく大きくなり、合理性を欠くと指摘した。

 もう一点は総務省の消費者物価指数ではなく厚労省独自の指数を採用したことだ。テレビやパソコンなど、生活保護世帯の支出割合が低い品目の物価下落率が過度に反映される仕組みになっており、算定根拠にならないと判断した。

 生活保護制度は憲法25条により「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する。客観的な根拠なしに「社会の命綱」を減額することは許されないとの司法判断だ。国は重く受け止めなければならない。

 生活保護は最低賃金などの指標にもなっている。判決は他の制度に影響を及ぼす可能性がある。

 生活保護は約163万世帯が利用する。新型コロナウイルスの感染拡大で職を失い、生活に困窮する人も増えている。生活保護の果たす役割は大きくなっている。

 だが周囲の偏見は根強い。援助できるかどうか家族に確認する「扶養照会」によって身内に知られることを恐れ、利用をためらう人も多い。厚労省の推計では利用世帯は対象の約4割にとどまる。

 制度が十分に機能していないにもかかわらず、国会で生活困窮者対策を問われた菅義偉首相は「最終的には生活保護という仕組み」もあると答弁し批判された。

 生活保護を必要としている人すべてに最低限度の生活を保障するのが政治の責任だ。

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