還暦記者・鈴木琢磨の、ああコロナブルー うなぎ屋の煙が目にしみる 千恵蔵も愛した味、店じまい
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世にうなぎ屋は数あれど、これほどの江戸っ子かたぎ、粋なうなぎ屋はそうざらにはないだろう。屋号は「ふな与」、浅草あたりならさもありなんだが、新興タウンの西武池袋線大泉学園駅(東京都練馬区)そばに店舗を構え65年。すぐ近くが東映の撮影所だから、味にうるさい名だたる俳優も通い詰めた。私がそのうなぎ屋のご主人、竹島善一(よしかず)さん(85)に出会ったのは以前、この欄で取り上げた古本屋「ポラン書房」が閉店した2月7日の夜のこと。両手いっぱいに古本を抱え、こうつぶやくのを耳にした。「先を越されちまったな」。いささか謎めいた言葉を残して去ったのだった。
妙に気になり、後日、うなぎを食べに出かけた。のれんをくぐって驚いた。テーブル席がない。玄関で靴を脱ぎ、畳の座敷に通される。「うちは牛丼屋じゃねえんだ。うなぎはゆっくり味わって食うもんだから。季節の花も生け、軸も飾る」。竹島さんの口からは自負に満ちた言葉がぽんぽん飛び出すが、そのまなざしはどこかさみしげでもあった。「うなぎが絶滅危惧種だと言うけど、うなぎ屋が絶滅危惧種なんですよ。うなぎってえのは、…
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