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3月14日に米ロサンゼルスで授賞式が開かれる音楽界の祭典「第63回グラミー賞」が揺れている。「子供向けアルバム賞」部門にノミネートされた5組のうち3組が、女性差別と人種差別があると訴えて辞退したのだ。これまでも不透明な審査や元会長の女性蔑視発言が物議を醸してきたグラミー賞だが、1部門で半分以上のアーティストが選考を辞退するのは異例だ。背景に何があるのか、事情に詳しいジャーナリストやノミネートを逃した黒人アーティストに聞いた。【大野友嘉子/統合デジタル取材センター】
過去10年間のノミネート 黒人6%女性30%
<残念ながら、候補者全員が白人であることと、女性が1人しかいないことは子供向け音楽の世界では不思議なことではありません>
今回、選考を辞退したアラステア・ムック・アンド・フレンズ、ザ・オーキー・ドーキー・ブラザーズ、ドッグ・オン・フリーズの3組は発表した声明で、そう皮肉った。子供向けアルバム賞部門候補5組の全てが白人で、そのうち4組が男性グループだったことを指摘したのだ。
声明はまた、過去10年間に同部門でノミネートされたアーティストの中で、黒人が率いるグループはわずか6%で、女性が約30%だったことを指摘している。
<殊に公平性、優しさ、インクルージョン(社会的包摂)のあるべき姿をパフォーマーが示すジャンルにおいて、そして子どもたちの半数以上が非白人である国においては受け入れられません>
子供向けアルバム賞部門は、ポップミュージックなどに比べて知名度が低く、それだけにアーティストにとっては「グラミー賞受賞」という実績は商業的にも重要だ。にもかかわらず辞退が相次ぐとは穏やかではない。
選考する大多数は白人
長年グラミー賞を取材する雑誌「ロッキング・オン」のニューヨーク特派員、中村明美さんは、こう語る。
「ダイバーシティー(多様性)が重要とされる世の中で、音楽産業がいかに白人男性に仕切られた旧体制のままであるのかということを象徴していると思います」
人種差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大事だ)」、性暴力を告発する「#MeToo」運動の世界的なうねりを念頭に、中村さんはグラミー賞を巡る二つの問題点を指摘する。
一つは、選考する側の大多数が白人男性であることだ。グラミー賞候補は、主催者「レコーディング・アカデミー」の会員約1万2000人の投票で部門ごとに20人選出される。米紙「USA TODAY」の2020年7月9日の記事によると、女性会員の割合は26%で、非白人もわずか25%だという。
もう一つは選考過程の不透明さだ。最終的な候補者を5人に絞り込む非公開の委員会の存在が取り沙汰されている。「この『秘密委員会』は、主要部門を含む59部門で最終的なノミネーションを決定していると報じられています。選考に明確な基準はないといわれており、20人に入っていなかったアーティストが追加されることもあります」(中村さん)
常連のビヨンセも冷遇?
一方で黒人歌手、ビヨンセは今年も9部門に名前が挙がる。グラミー賞に最も多くノミネートされたアーティストだ。
しかし、と中村さんは言う。「実際に受賞した賞を見ると、彼女が『王道』から外されていることが分かります」。…
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