「被害主張は女のヒステリー」 原発事故被災者が受けた女性差別
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「福島から嫁はいらない」「放射線被害を訴えるのは女のヒステリー」――。これらは、東京電力福島第1原発事故(2011年3月)で被災した女性たちが、ネット上で、または面と向かって浴びせられ、傷ついた言葉だ。主に福島県から避難した女性たちから体験の聞き取りを続けてきた宇都宮大の清水奈名子・准教授は「事故自体で大きな被害を受けているのに、さらに女性はジェンダーに基づく差別や抑圧を受け、家庭や地域で意思決定に関われず、孤立感を深めている」と指摘する。女性たちの証言を基に、あまり注目されてこなかったジェンダーの視点から原発事故被害を考えたい。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】
聞き取り活動で気付いた女性差別
原発事故後、福島県から隣接する栃木県にも住民が避難してきた。事故前から宇都宮大で勤務していた清水さんは同僚と共に、子供と避難してきた女性たちの支援に関わるようになった。
13年以降は、栃木県に避難してきた人のほか、栃木県北部の放射線量が高かった地域に住む人やそこから避難した人、福島に住む人など約60人から、事故前後の生活や思いを聞き取った。その一部は証言集にまとめ、その後も勉強会などで交流を続けている。
その活動の中で気付いたのが、「女性だからまともに取り合ってもらえず、悔しい思いをした」などジェンダー差別を受けた経験を明かす人が多いことだった。清水さんは調査を始めた動機を次のように語る。
「私は国際関係論を専門にしており、戦争と平和をテーマに研究してきましたが、戦争や内戦の被害者は積極的に体験を語ろうとしません。自身が生き抜くことに必死だったり、特に性暴力の被害者は差別やスティグマ化(負のレッテル貼り)を恐れたりするためです。一方、国家は都合の悪い事実を記録に残さず、隠蔽(いんぺい)することもある。国策である原発の事故でも同じことが起こらないよう、きちんと当事者の声を記録に残さないといけないと思いました」
そしてこう続けた。「対象の大半が30~40代の女性だったのですが、差別的扱いを受けたという話を繰り返し耳にしました。これは女性たちにとって特殊な経験ではなく、ごく一般的な経験なのだと感じました。事故では避難を余儀なくされた人、避難を選んだ人、避難せず汚染地域に住み続けた人、など被害実態は多様です。そこにジェンダーを巡る抑圧が絡み、さらに被害を複雑にし、見えにくくしているのではないか、と考えるようになりました」
「私はヒステリー扱い、夫は応接室へ」
具体的にはどんな差別を経験したのか。清水さんが聞き取った女性たちの証言を紹介したい(年齢、居住地などは聞き取り当時)。
栃木県那須塩原市で被災した30代の女性は「私が女性であったからこそ、男性と同じことを訴えてもきちんと対応してもらえなかったという経験がありました」と語…
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