「脱1点刻み」どうなった? 共通テスト、机上の成果と現実の壁

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今年1月に初めて実施された大学入学共通テストでは段階別評価「スタナイン」が導入された。「1点刻みからの脱却」という期待とは裏腹に、入試での活用は広がっていない=東京都千代田区で2021年3月5日午後0時45分、大久保昂撮影
今年1月に初めて実施された大学入学共通テストでは段階別評価「スタナイン」が導入された。「1点刻みからの脱却」という期待とは裏腹に、入試での活用は広がっていない=東京都千代田区で2021年3月5日午後0時45分、大久保昂撮影

 国が主導する大学入試改革の一環で今年1月に初めて実施された大学入学共通テスト。英語民間試験と記述式問題の導入という「2枚看板」が倒れる一方、実はひっそりと改革の理念が実現したものがある。それが成績の「段階別評価」だ。「知識偏重の1点刻みのテストからの脱却」という野心的なスローガンを掲げて導入されたのだが、大学側の反応は芳しくない。なぜなのか事情を探った。【大久保昂/東京社会部】

有力私大担当者も知らなかった段階別評価

 「『スタナイン』っていうのは……。今まではなかった評価なんですよね?」

 首都圏の有力私大の入試担当者は少し戸惑った様子で、取材する私に対し、逆に質問を投げかけてきた。

 スタナインとは、共通テストで採用された新しい成績表示法である。

 従来の1点刻みの「素点」とは異なり、受験生全体の中でのおおまかな位置を9段階の相対評価で示す。

 上位4%が「9」、同4~11%が「8」、同11~23%が「7」という具合に、各段階の割合がおおむね決まっている。共通テストを合否判定に使う大学には素点と併せて伝えられる。大学入試改革が目指した「1点刻みからの脱却」を部分的に実現したものだ。

 これを入試でどのように活用したのか、大学の広報課を通じてメールで質問を送っていたが、回答のために電話をくれた入試担当者は、耳にするのも初めてといった様子だった。

きっかけは安倍前首相の教育再生実行会議

 実際の入試でどう活用されたかを紹介する前に、この仕組みが導入されるまでの歩みを振り返りたい。「理念」が先行し、制度設計は二転三転した。

 まず、大学入試改革の議論に火をつけたのは、安倍晋三前内閣が設置した教育再生実行会議の2013年10月の提言だった。

 「1点刻み」「一発勝負」といった従来の入試の仕組みを批判し、能力や意欲、適性を多面的・総合的に評価する方法へと転換するよう求めた。

 提言が示した具体策の一つが、センター試験の代わりに「基礎レベル」と「発展レベル」の二つの達成度テストを設け、それぞれ複数回の挑戦を認めるようにすることだった。発展レベルについては、「結果をレベルに応じて段階別に示すなどの工夫」を凝らし、1点刻みの入試からの脱却を図るよう提案した。スタナインの源流と言える記述だ。

 これをきっかけに中央教育審議会や文部科学省が設置した有識者会議で本格的な議論が進められた。しかし、大学入試に活用するテストを2種類用意し、それぞれ複数回実施するという案は暗礁に乗り上げる。複数回実施となれば、入試の実質的な前倒しにつながりかねないことから、高校関係者を中心に慎重論が続出したためだ。

 結局、センター試験を思考力や表現力、判断力をより重視する共通テストに衣替えし、そのための2枚看板として英語民間試験と記述式問題を導入するというものに落ち着いた。

 しかし、離島や山間部では受験機会が限られる英語民間試験が果たして公平と言えるのか、大量の記述式の答案を短期間で正確に採点できるのか、といった懸念を拭い切れず、本番の約1年前の段階でそろって見送りが決まった。

 一連の議論では、「1点刻みからの脱却」も焦点の一つとなった。

 有識者会議では「1点刻みからの脱却はすべての科目で考えるべきだ」「素点の提供はいずれやめてほしい」という意見が出る一方、段階別評価に対する慎重論も根強く、素点を残しつつ段階別評価も導入し、活用方法は大学に委ねるという「玉虫色の決着」となった。決して完全な形ではなかったものの、当初の改革案が次々と頓挫する中、具現化した数少ない「成果」と見ることもできる。

私立大からも国立大からもそっぽを向かれた

 では、実際にスタナインを合否判定に使った大学はあったのだろうか。

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