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芸術選奨に井関佐和子と加治屋百合子 「ほかの成果」も高い評価

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「夏の名残のバラ」の井関佐和子=写真家・篠山紀信撮影
「夏の名残のバラ」の井関佐和子=写真家・篠山紀信撮影

 新型コロナウイルス禍も1年に及ぼうという春3月、朗報が舞い込んだ。第71回芸術選奨の舞踊部門・文部科学大臣賞に、井関佐和子と加治屋百合子が選ばれたのである。対象は順に「『夏の名残のバラ』ほかの成果」と「『海賊』ほかの成果」。「ほか」への言及が、コロナ下の今年度ならではだろう。賞を受けての思いを2人に聞いた。【斉藤希史子】

井関佐和子 金森穣のビジョンの体現、新たな段階に

 井関への授賞理由は「Noism(ノイズム)結成当初より,同芸術監督・金森穣氏の壮大かつ緻密なビジョンを体現してきた無二のダンサーである。『夏の名残のバラ』では、バレエをベースにした確固たる技術と傑出した表現力を余すところなく発揮してダンサーの生きざまを踊り,清冽(せいれつ)な印象を残した。コロナ禍にあっても活動は衰えることなく、映像舞踊『BOLERO 2020』の配信など、舞踊の新たな可能性に挑戦し続けた。新潟発の日本を代表するダンサーとして、ますますの円熟と更なる進化が期待される」。

 本人は一報を受け、「賞って誰に?」という驚きに続いて、金森ら周囲のダンサー、スタッフやファンへの感謝が押し寄せてきたという。「特に前面に打ち出したいのは『新潟発』の部分です。そう評価していただけたことが、何よりうれしい。ここ新潟の時間と空間がなければ、今日の私はありませんから」

 高知県に生まれ16歳で渡欧し、ネザーランド・ダンス・シアターⅡなどで活躍後の2004年、日本初の公設劇場専属舞踊団ノイズム(新潟市)の結成に加わった。例えばローラン・プティにジジ・ジャンメールという魂の双子のようなミューズ(芸術の女神)がいたように、「1人の振付家の作品を究めることへの憧れ」が、早くからあったという。巨匠と呼ばれるモーリス・ベジャールやイリ・キリアンの全盛期には間に合わず、同世代の鬼才には金森がいた。以来、「恐ろしい速度で進化を続ける穣さんの背中を必死で追ってきました。ここ数年でしょうか、時には並んで走ることもできているような……新たな段階に来た実感があります」。

「夏の名残のバラ」は一つの集大成

 そのノイズムは一昨年、首長の交代で存続の危機にさらされた。ダンサーの身分が不安定な日本で、唯一「公」の存在であるノイズムですら、基盤は危うい……。厳しい現実を思い知らされる事件だった。幸いにも当面の存続が決まり、「夏の名残のバラ」は再生第1作(19年12月、新潟で初演)。金森の意図したテーマは「今の私」(井関)であり、楽屋での支度から舞台で咲き誇る存在感を、映像も駆使して際立たせた。一人の女性としての生き方が屹立(きつりつ)した傑作。「ノイズムの新たな出発の時であり、私自身も40代に入った節目。過去作品のステップも数多く組み込まれ、一つの集大成とも言える作品になりました」。受賞はまさに「天の時」だったと言えるだろう。

 若き日に憧れた通り、金森作品によって17年間、磨き抜かれた井関は、舞台上でシャーマン(みこ)のような神性を帯びつつある。しかし本人は「そんな神がかり的な境地にはまだ遠く、今のところは頭と五感を総動員して、共演者や客席の空気を受け取りながら、私自身として舞台に立っています」と述懐する。「作品を体現するには、努力あるのみ。黙々と、振りを体に落とし込むだけです。もし私に才能があるとすれば、負けず嫌いの才…

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