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常夏通信

番外編 77年目の東京大空襲 「霞が関語」は民間人切り捨ての論理か

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空襲で焼け野原となった東京・隅田川沿岸。手前右は国技館
空襲で焼け野原となった東京・隅田川沿岸。手前右は国技館

 「野党は全て党内手続き済みです。自民党はどうなのですか」

 「政府だって大きな責任を負っています。何がハードル、問題なんでしょう」

 今月5日、参議院予算委員会。舟山康江議員(国民民主党)が戦後補償問題に関して政府に迫った。よく通る声で、迫力のある内容だった。私は空襲被害者など民間人戦争被害者に関する補償問題について10年以上取材している。この問題で首相の答弁を聞いたのは6年ぶりのことだ。

「東京大空襲」だけでない「東海道大空襲」

 今から76年前の今日3月10日、アメリカの戦略爆撃機であるB29およそ300機が、東京・隅田川沿岸を無差別爆撃した。爆撃自体は2時間程度で終わったが、折からの強風もあって火災が広がった。犠牲者は8万人とも10万人ともされる。「東京大空襲」である。歴史の教科書に記され、広く知られているだろう。しかし米軍による大規模な無差別爆撃はこれが終わりでなく、始まりだった。大阪や名古屋、横浜などが壊滅した。いわば「東海道大空襲」であった。もちろん、その他の地域も襲われた。

 本連載その14~54(「74年目の東京大空襲」)などで繰り返し見てきたように、政府は民間人の空襲被害者への補償を拒んできた。軍人や軍属らへの援護や補償は累計60兆円に及ぶ。民間人が「差別だ」と感じるのは自然だろう。このため当事者たちは立法運動や法廷闘争を行ってきたが、実現していない。今、当事者たちが望みを託しているのは、与野党超党派の国会議員による「空襲議連」(会長・河村建夫元官房長官)である。議連は救済法案を作り、今国会への提出・成立を目指している。

舟山康江議員の迫力

 舟山議員の持ち時間は片道10分余り(質問議員の時間だけがカウントされ、政府側の答弁は時間に含まれない)。新型コロナウイルスの政府対応などを巡る質疑で時間が過ぎていった。「このまま、時間切れで今回は質問なしだろうか」。傍聴していた私は、そう思った。しかし残り3分ほどの時点で、舟山議員は鋭く切り込んでいった。

 「平成27(2015)年6月18日の(衆議院)予算委員会で当時の安倍(晋三)総理が行政府でも考えていく問題と答弁されています。政府内でこれまでどのような検討をされたのでしょうか」と問うた。

 同委員会では現在空襲議連の事務局長を務める柿沢未途議員が、民間人空襲被害者の補償問題について安倍前首相に質問した。安倍前首相は「空襲によって命を落とされた方々に対してどのような対応をすべきかということについては、超党派の議連における熱心なご議論があることは私も承知をしております。(中略)まさにこれは国会においても十分なご議論をいただきたい、こう思う次第でございまして、これは立法府において、もちろん行政ということもあるかもしれませんが、まさにみんなで考えていく問題ではないか、このように思っております」と答えた。舟山議員の質問はこれを踏まえてのものだ。

「立法府が決めること」論の系譜

 田村憲久厚生労働相は「安倍前総理でありますけれども、空襲等被害者への対応につきまして超党派による熱心なご議論があることを前提に、まずは立法府で十分なご議論を頂いた上で、行政府を含めてみんなで考えていく、と答弁されたとお聞きしています。厚生労働省の所管を超えている部分もあるんですけれども、我々は我々でいろいろな社会保障施策の中で対応してきているわけでありますが、まずは議員連盟の動きをしっかり注視」するなどと述べた。

 つまり国会が立法の方向を決めるのが先、ということだ。背景には民間人戦争被害者への補償に消極的だった政府の姿勢がある。

ボールは自民党に

 舟山議員はさらに「(法案提出について)野党は全て党内手続き済みです。自民党はどうなのか」と問うた。田村厚労相が「党の中でも議連の方々中心になって動いている。議連の方々にお聞きになっていただきたい」と答えた。

 舟山議員は、その議連の中心メンバーの一人だ。自民党員でもある田村厚労相の答弁は、「法案提出に向けての状況を党に聞く立場ではない。それを知りたいのならば、自分で聞いてください」ということだ。他党の議員に自民党議員への取材を促すのは、さすが与党、親切というべきか懐が深いというべきか。

 ともあれ一年中「8月ジャーナリズム」=戦争報道をしている常夏記者こと私は、議論を聞いていて突っ込みたくなった。「戦争被害者に対する補償は、政府主導で行われたものがたくさんありますよ。どうして空襲被害者たちへの補償だけ議会任せなんですか?」と。

 続いて、自民党総裁でもある菅義偉首相が答弁に立った。

 「田村大臣と同じ答えになりますけれど、私、官房長官時代に法案の内容を自民党の議員から聞いています。総理になってから事務方から検討中の内容について説明を受けています」

 「説明を聞いて、どう思ったんですか?」。傍聴席で私はそう聞きたくなったが、これも胸の内にしまい込んだ。

 舟山議員「政府だって大きな責任を負っています。何がハードル、問題なんでしょう」

「雇用していないから補償しない」

 田村厚労相「政府として、…

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