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大震災10年 原発のこれから 現実直視し政策の転換を

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 燃料が空だきになり、メルトダウンした原発で次々爆発が起きる。環境中に放出された放射性物質が風に乗って広がり、住まいも農地も、森や川も汚染する。

 東京電力福島第1原発の過酷事故から10年。あの時、人々の命を脅かし、生活を根底から覆す大惨事を目の当たりにし、「こんなことを二度と繰り返してはならない」と心に誓ったはずだ。

 地震大国日本に54基もの原発が立地する異常さを思えば、原子力政策の大転換は避けられない。危険度の高い原発から順次廃炉にし、原発に依存しない社会を築く必要がある。当時の私たちの考えは今も変わっていない。

 では、その実現に向けた変革は進んだのだろうか。

 この10年の日本のエネルギー政策を一言で総括すれば、現実から目を背けた原発回帰だ。

拭えない国民の不信感

 事故当事国でありながら、原発へのこだわりが足かせとなり、思い切った政策転換ができない。結果的に再生可能エネルギーを急拡大させる世界の潮流からも取り残されてしまった。

 一方で、再稼働した原発は9基にとどまり、もはや基幹電源とはいえない。政府はその現実を直視することから始めるべきだ。

 原発事故後、民主党政権は将来的な「原発ゼロ」を打ち出した。しかし、安倍晋三政権はこれを覆し、再稼働を進めてきた。

 現行のエネルギー基本計画は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成に占める比率の目標を20~22%としている。再生エネは22~24%だ。

 だが、19年度の原発の比率は6%であり、目標は非現実的だ。

 政府の思惑通りに進まない理由のひとつは、国民の原発への不信感が拭えないことだ。

 経済産業省に属していた規制組織は、原子力規制委員会として独立し、規制基準は厳しくなった。だが、過酷事故時に住民を守る避難計画は今も安全審査の対象となっていない。

 規制委の審査合格を安全の根拠とする政府と、合格だけで安全は保証されないという規制委の立場は食い違う。

 安全確保に最終責任を負う電力会社の意識改革も不十分だ。

 最近も再稼働をめざす東電柏崎刈羽原発で中央制御室への不正入室が起きたことが明らかになった。福島第1原発3号機では地震計の故障を放置し、先月起きた最大震度6強の地震のデータを観測できなかった。事故の教訓は生かされていない。

 そもそも原発はひとたび重大事故が起きた場合の影響があまりに大きい。

 原発の競争力も低下した。発電コストの安さを売り物にしていたが、事故後、追加安全対策コストが跳ね上がり、経済性が失われつつある。最新型の原発建設もコストが膨れあがり、日本の原発メーカーである東芝、日立製作所、三菱重工業の3社は事実上、輸出から撤退した。

急がれる再生エネ拡大

 一方で、再生エネの発電コストや蓄電池の価格は大幅に下がった。こうした現状に即してそれぞれの電源のコストを見直し、脱原発の将来像を描くべきだ。

 そのためには、気候変動対策を原発抜きでどう進めるかが課題となる。

 菅義偉首相は昨年、50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする方針を打ち出した。原発の活用を想定し、建て替えも念頭にあると思われる。

 だが、国民の不信や競争力の低下を思えば、原発頼みの温暖化対策は現実的ではない。再生エネの拡大にこそ投資した方がいい。

 変わらない政策が多い中で、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉は重要な変更だ。追い込まれての決断とはいえ、日本が長年、国策としてきた再処理・核燃料サイクルの破綻を象徴している。

 使用済み核燃料の再処理は核兵器に転用できるプルトニウムを生み出すため、核不拡散の観点から国際社会には懸念する声がある。

早急に政策を変更すべきだ。

 電力システム改革もさらに徹底したい。再生エネを導入しやすい柔軟な送電網利用、国のインフラとしての送電線の整備を早急に進めることが欠かせない。

 原発震災10年は一区切りではない。原発のない社会を実現する道のりの通過点である。

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