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性別にとらわれず自分らしく生きるために、声を上げる人たちが増えています。当事者の思いや社会の課題を追います。

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「居場所がない」トランスジェンダーの性虐待被害者が願うこと

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「LGBTQの性暴力サバイバーも安心して相談できる体制がほしい」。当事者としての切実な願いだ=東京都内で2021年3月8日午前9時47分、藤沢美由紀撮影
「LGBTQの性暴力サバイバーも安心して相談できる体制がほしい」。当事者としての切実な願いだ=東京都内で2021年3月8日午前9時47分、藤沢美由紀撮影

 性暴力に対する抗議が、世界中で大きなうねりとなっている。日本でも近年、ネット交流サービス(SNS)を主舞台にした被害告発「#MeToo」や、各地で月に1度集まって抗議の意思を示す「フラワーデモ」が、人々の意識を高める役割を担ってきた。だがその一方で、フラワーデモに複雑な思いを抱く性暴力被害経験者もいる。出生時の性別は女性とされ、男性として生活するトランスジェンダーで、幼い頃、年の近い兄から性暴力を受けたという堀田優さん(30代、仮名)だ。「僕のような存在は、いないことになっていると感じてしまうんです」と語る堀田さんに、思いを聞いた。【藤沢美由紀/統合デジタル取材センター】

 「男性の方も来てくれてうれしいです」。それは堀田さんが当時住んでいた西日本の地方都市の広場で、初めて開かれたフラワーデモに足を運んだ時のことだ。運営スタッフからそう声をかけられ、堀田さんは言葉に詰まった。

 フラワーデモは、相次ぐ性暴力事件の無罪判決に抗議するため2019年4月に東京で始まり、全国各地に広がった運動だ。抗議の印の花を手に集まり、スピーチや、時に無言で、意思を示す。堀田さんには、性暴力と向き合う怖さや、しんどさはあった。それでも参加したのは、子どもの頃から暮らしてきた町の普段からよく通る場所で、性暴力を許さないと声を上げられるという格別の思いがあったからだ。

 だが、現在は男性として生活する堀田さんは、外見から「被害者側」とはみなされなかった。「自分のような者は被害の当事者として想定されていない」。参加者が順にスピーチしたが、性暴力を受けるのは女性だけであるかのように語る内容が続いた。堀田さんは語る言葉が見つからず、マイクを持つことはなかった。

 堀田さんが抱いた疎外感は、性別の扱われ方だけではなかった。「加害者が他人だったら、自分もこの人たちのようにシンプルに恨めたんだろうか」。比べるべきではないと頭ではわかっていても、その思いが消えなかった。

それは6歳で始まった

 堀田さんには、子どもの頃の記憶があまりない。小学生の時に両親が離婚し、母と3歳離れた兄との3人暮らし。母が「箸の持ち方が悪い」と言って兄の手を強くたたき、床に落ちた茶わんが割れて怖かったことを断片的に覚えている。兄への厳しい振る舞いも、自分には別れた父親の悪口を日々言い聞かせるのも、「虐待」に当てはまると後で知った。

 兄からの性暴力が始まった…

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