我慢の門出に「卒業ソング」 震災からコロナ禍へ 指揮者・広上淳一さんと音大生らが配信
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あなたは卒業式に歌を歌っただろうか。その歌を口ずさめば、今も懐かしい記憶があふれ出すだろうか。でも今年はコロナ禍で合唱ができず、「歌えない卒業式」が日本中に広がっている。音楽に逆風が吹く中、「災害時に音楽にできることは何か」を懸命に模索した東京音楽大学の教員と大学生を取材した。
「頑張っていくぞ」「おーっ!」。3月11日午後2時から始まる演奏会を目前にして、東京都目黒区の同大ホールでは威勢のいい掛け声が響いた。舞台には、春らしい色とりどりのドレス姿の女子と黒いスーツ姿の男子の学生約50人。
「卒業式で歌えない子どもたちのために、せめて卒業ソングを贈りたい」という同大指揮専攻教員と学生有志が企画した動画配信プロジェクトがいよいよ始まった。題して「みんなで卒業式 輝ける君の未来へ贈る」。オーケストラと合唱で「仰げば尊し」「旅立ちの日に」「花は咲く」といった定番の「卒業ソング」など11曲を演奏した。
企画を率いるのは、世界的なマエストロで京都市交響楽団常任指揮者兼芸術顧問の広上淳一さん(62)だ。同大指揮専攻の教授でもある。
「音楽は社会の中にある。音楽家は社会に役立つ活動をしていかなければ」が持論の広上さんはある日、同じ指揮専攻の特任講師でレコーディングディレクターの坂元勇仁(ゆうじ)さん(59)からこんな話を聞かされた。
コロナ禍の今、学校では合唱などの音楽活動が制限されているばかりか、修学旅行などの行事を全て我慢した学年が、思い出に刻まれるはずの「卒業ソング」さえ歌えず、我慢だらけの卒業式を迎えようとしている――。
「歌の贈り物のようなプロジェクトをやりたい」。坂元さんの熱のこもった提案に、広上さんは目を開かされた。「まさにコロナ禍の今、私たち東京音大指揮専攻がやるべきプロジェクトだ」。企画を発表すると、全国から応援のメッセージが相次いだ。岩手県の小学校教諭はこんな思いを寄せた。「知らない人から何かしてもらった子どもたちは、やがてきっと知らない誰かに対しても何かしてあげられる大人に育つはずです」
動画配信日を東日本大震災から10年の日としたのには理由がある。…
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