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2月の在京オケ公演リポート(下)~東京都交響楽団&読売日本交響楽団

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経験豊かな藤村実穂子(左)と大野和士がブラームスの深淵な世界を作り上げた都響スペシャル=2月22日、東京文化会館大ホール 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸
経験豊かな藤村実穂子(左)と大野和士がブラームスの深淵な世界を作り上げた都響スペシャル=2月22日、東京文化会館大ホール 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

 2月の在京オーケストラの演奏会レビュー第2回は、音楽監督の大野和士が指揮した東京都交響楽団の定期演奏会に代わる「都響スペシャル」(22日、東京文化会館大ホール)と往年の巨匠カール・シューリヒトの夫人から贈られたユニークな名前を持つ若手指揮者、松本宗利音(まつもとしゅうりひと)が初登場した読売日本交響楽団の「名曲シリーズ」(25日、サントリーホール)について報告する。(宮嶋 極)

【都響スペシャル2021】

 この公演は当初マーラーの交響曲第2番「復活」を演奏する予定であったが、2度目の緊急事態宣言の発出と海外からの入国制限の厳格化などを受けて大編成のオケと合唱を必要とする同曲は舞台上の密が避けられないとの判断によりプログラムが変更された。(同時期にやはりマーラー2番を予定していたチョン・ミョンフン指揮東京フィルの公演は中止となった)

 プログラムの変更は巧みで「復活」のソリストであったメゾの藤村実穂子と新国立劇場合唱団(男声)をブラームスの「アルト・ラプソディ」に、中村恵理はマーラーの交響曲第4番の独唱者へとそれぞれスライドさせた。バイロイト音楽祭の常連であり、ウィーン国立歌劇場をはじめとする欧米の一流歌劇場で活躍する藤村の歌唱はニュアンスに富み深みを感じさせるもので、聴衆を作品の世界に自然と引き込んでいく。雄弁な藤村の歌唱を同じく海外のオペラ経験が豊富な大野は柔軟かつしなやかにフォローしていき、聴き応えのある音楽的対話が繰り広げられた。

 最初に演奏された武満の「夢の時」は「復活」で〝乗り番〟であったメンバーがそのまま出演したような大編成の作品。こうした複雑な楽曲に対する大野の指揮者としての捌(さば)きはいつも目を見張るものがあり、この日も精緻に武満の響きの世界を創出させていた。

 メインのマーラー4番は大野ならではの見通しのよい明晰(めいせき)な組み立てがなされていた一方で、この作品の特徴でもある叙情性や穏やかさにも十分気が配られており、完成度は高かった。トロンボーン、チューバを必要としないなどマーラーの交響曲の中では最小の編成の作品。それでも16型で臨んだ都響弦楽器セクションの厚く温かみのあるサウンドが、作品の魅力を一層際立たせていた。コンサートマスターは矢部達哉。

プログラムの変更を余儀なくされたものの、当初の編成を生かした再構成も見事 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸
プログラムの変更を余儀なくされたものの、当初の編成を生かした再構成も見事 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

【読売日本交響楽団 名曲シリーズ】

 宗利音(しゅうりひと)、その名前だけでどんな指揮者なのか聴いて、また見てみたくなる。1993年大阪府生まれ。熱心なクラシック音楽のファンであった両親が、親交のあったシューリヒト夫人に頼んで命名してもらったのだという。東京芸術大学指揮科を最優秀で卒業し東京シティ・フィルの研究員などを経て、2019年から札幌交響楽団の「指揮者」のポストに就いている。読響とは初共演。日本のトップ・オケのひとつに数えられるこのオケ相手にどんな指揮ぶりを披露するのか、その力量が試される機会となった。

 1曲目の「オベロン」序曲冒頭はさすがに緊張が隠せないのか肩にかなり力が入っていた様子。楽想が転換する箇所で少しぎこちなさを感じさせたりもしたが、曲が進むにつれて次第に硬さが取れコーダでは伸び伸びと自分の音楽を追求しているように見えた。

 2曲目、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲でも最初は辻彩奈のスケール感あふれるソロに押されるような雰囲気が漂ったが、第1楽章終盤あたりからペースをつかんだようで、ソロと丁々発止のやり取りが行われてくる。終楽章では両者の若いエネルギーがかみ合って音楽によい活気をもたらしていた。

 ブラームスは思いのほかオーソドックスな組み立て方をしていた。スロー・スターターなのか第1楽章では若者らしくもっと冒険してもいいのでは、と感じたりもしたが第2楽章から次第に自由度と活力を増していき、最後は地にしっかり足を付けたアプローチでクライマックスを作り上げていた。

 今回は最近充実の度を増している読響が相手だっただけに演奏の質も高く、これだけで宗利音の才能を判断するには至らなかったというのが率直な感想である。それでも名前だけではなく面白い若手音楽家であることは確かである。次の機会にも期待したい。なお、この日のコンサートマスターは小森谷巧が務めた。

27歳にして読響との初共演を果たした松本宗利音 (C) 読売日本交響楽団
27歳にして読響との初共演を果たした松本宗利音 (C) 読売日本交響楽団

公演データ

【東京都交響楽団 都響スペシャル2021】

2021年2月20日(土)18:00サントリーホール、22日(月)18:00東京文化会館

指揮:大野和士  

ソプラノ:中村恵理

メゾソプラノ:藤村 実穂子  

男声合唱:新国立劇場合唱団

武満 徹:夢の時(1981)

ブラームス:「アルト・ラプソディ」~ ゲーテ「冬のハルツの旅」によるOp.53

マーラー:交響曲第4番ト長調

【読売日本交響楽団 第639回名曲シリーズ】

2月25日(木)19:00 サントリーホール

指揮:松本 宗利音

ヴァイオリン:辻 彩奈

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35

ブラームス:交響曲第2番ニ長調Op.73

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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