連載

社説

社説は日々、論説委員が議論を交わして練り上げます。出来事のふり返りにも活用してください。

連載一覧

社説

賃上げ鈍化の春闘 人への投資は成長の礎だ

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

 今春闘で賃上げの動きが鈍化している。けん引役の大企業で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を見送ったり、上げ幅を縮めたりするケースが増えた。

 新型コロナウイルスの感染拡大で経営環境が悪化したためだ。賃金の伸び率は、8年ぶりに2%を割り込む可能性がある。

 所得が伸び悩んで消費が低迷すれば、景気は冷え込む。賃上げの流れを停滞させてはならない。

 経営側は早くから、事業継続を優先する方針を強調し、賃上げに予防線を張っていた。

 労働側も雇用の維持に軸足を置いた。自動車産業ではベア要求の見送りが相次ぎ、電機産業はベアの要求額を前年より下げた。

 コロナ禍で運輸や観光、飲食関連の企業が打撃を受けたのは事実だ。ただし、巣ごもり需要やデジタル化の追い風を受けた電機の業績は速足で改善し、自動車も中国市場の急回復に支えられている。

 コロナを言い訳に賃金を抑制する動きがなかったか、十分な点検が求められる。

 そもそも、日本の賃金は高くない。経済協力開発機構(OECD)の賃金統計によると、物価水準などを調整した購買力平価ベースでは主要7カ国で最低だ。

 人への投資は成長の礎だ。おろそかにすれば競争力は低下する。

 景気が弱含むたびに「賃金か雇用か」の選択を迫る労使交渉からは脱却する時だ。目先のコスト削減を優先して賃金を軽んじれば、働き手の能力を引き出せない。

 春闘の意義も問われている。相場形成を担ってきたトヨタ自動車はベアの有無を明らかにしなかった。賃上げ水準を統一していた電機業界の慣例は崩れている。

 業績格差が広がり、働き方が多様になる中、横並びの方式は限界を迎えている。ただ、大企業の交渉結果が中小企業にも影響を与える以上、わかりやすく、効果的な賃金交渉の手法を模索すべきだ。

 テレワークやジョブ型といった新しい雇用形態への対応をはじめ、高齢者雇用や非正規従業員の待遇改善など課題は山積している。労使交渉の役割は大きい。

 継続的な賃上げを起点に人材を集め、企業競争力の向上につなげる好循環が必要だ。春闘の機能を高める工夫が求められる。

あわせて読みたい

注目の特集