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15年前、日本人女性として初めて、世界第2の高峰、K2(8611メートル)に立った写真家、小松由佳さん(38)は今、苦境にある。「元々大変な経済状態でしたけど、結婚してますます困窮し、子供が生まれて拍車がかかり、コロナで一気に仕事が減って」。アナウンサーのようなきれいな声、やさしい笑顔でそう語る小松さんに「あえて苦難を求める人生」を聞いた。
新刊「人間の土地へ」(集英社インターナショナル)はK2の高みから一気に人間の世界へ舞い降りた女性の波乱を丹念につづった作品だ。K2からどうにか生還した23歳の小松さんにこんな言葉が浮かんだ。<人は何かを成し遂げたり、何かを残さなくとも、ただそこに生きていることがすでに特別で、尊いのだ>(同書より、以下同)。その翌年、別の高峰を登山中、突然気づいた。この先もヒマラヤを登り続けると思っていたのに、恐怖、違和感に襲われた。ここで死んだら、自分の生に納得できない。自分は山の頂ではなく、人の暮らすふもとに向かいたいんだ。高校で始め、大学時代には年に200日以上も通い詰めた山から心が離れ、帰国すると、自転車に寝袋を積み東京から沖縄まで野宿の旅を続けた。山ではなく人に分け入った。「この島国にこんなに多様な文化や価値観があると肌で感じたことがすごく新鮮でした」
26歳、写真家を志しユーラシア大陸を旅した。シリアで砂漠の民と出会い、一族の息子と恋に落ちたのもつかの間、シリアは激しい内戦となる。恋人は徴兵後、軍から脱走し難民になり、…
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