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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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年度末は、経営不振の企業が…

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 年度末は、経営不振の企業が資金繰りに追われる。過去には巨額の不良債権処理を迫られた大銀行が、取引先などから1兆円もの資金をかき集めて乗り切ったこともあった▲コロナ下の年度末、大銀行のような力も持たず、窮地にある中小企業は多い。営業時間の短縮を求められている小さな飲食店は特に厳しい▲東京・神田で藤枝勇(ふじえだ・ゆう)さん(41)が営むイタリア料理店は、10人も座ればいっぱいのカウンターだけだ。フィレンツェで修業して8年前に開店したところ、目の前で打つ本格パスタが評判を呼び、いつもにぎわっていた。それがすっかりまばらになり、売り上げは8割も減った▲夜の予約が一組でも入れば、「ああ、この売り上げであすも店を開けられる」と胸をなで下ろした。時短への協力金はほかの店と同様、都の手続きが滞り、年末年始の分さえ届いていない。年度末どころか、毎日のように綱渡りを強いられ、「先が見えない」と店をたたむことすら考えた▲続けられたのは、下町の雰囲気が漂う神田で小さな店同士の助け合いがあったからだ。居酒屋が困っていると聞けば、藤枝さんが食事に行った。すると居酒屋に紹介されたというお客さんが店に来てくれた。休業した喫茶店もコーヒーの差し入れで励ましてくれた。「みんな大変なのに温かい」▲緊急事態宣言はきのうで解除されたが、感染再拡大が懸念され、客足がすぐ戻るとは思えない。地域の絆を支えに、パスタを存分に振る舞える日を辛抱強く待つつもりだ。

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