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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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中央の監視塔からすべての囚人を監視できるよう…

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 中央の監視塔からすべての囚人を監視できるよう円形に独房を配した監獄を「パノプティコン」という。一望監視システムと訳されるこのアイデア、英国の功利主義の思想家ベンサムが18世紀末に発案した▲このパノプティコン、監視塔の窓にブラインドをかければ、囚人の方は監視されているかどうかも見えない。いつ監視されているか分からない囚人たちはやがて心の中に自分を監視する目を植え込まれ、自発的な服従がもたらされる▲20世紀フランスの思想家フーコーは、近代社会の管理統制の秘密をこのパノプティコンになぞらえて描き出した。そして21世紀、その“監視塔”から世界中の膨大な個人情報を人知れずながめ、取り出し、利用できるIT企業である▲無料通信アプリLINE(ライン)の利用者の個人情報が中国の関連会社からアクセスされていたのが問題化した。個人情報の外国移転や国外からのアクセスには利用者の同意が必要で、同社の利用者への説明は不十分と批判された▲ちなみに欧州連合(EU)の規則では、個人情報管理が十分とされた国にしかデータを移転できない。政府が企業に情報提供を強制できる中国のような国へのデータ移転やアクセス容認は、“監視塔”にその政府を招き入れかねない▲利用客は月8600万人、すでに行政やビジネスのツールとして用いられるLINEである。総務省は同社に報告を求めているが、一国の情報インフラがまるごと「一望監視」されてはいないかが心配になる。

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