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不安も迷いもあるが…3人は誰も住んでいない町を走ると決めた

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自身の思いを語る聖火ランナーの桜庭梨那さん=東京都内で2021年3月8日午後2時50分、金子淳撮影
自身の思いを語る聖火ランナーの桜庭梨那さん=東京都内で2021年3月8日午後2時50分、金子淳撮影

 誰も住んでいない町を聖火が走る。10年前の福島第1原発事故で全町避難を余儀なくされた福島県双葉町である。昨年、JR双葉駅周辺で避難指示が解除されたが、今も住む人はいない。東京オリンピック・パラリンピック開催の賛否が割れる中、原発があった故郷を走る聖火ランナーは何を思っているのだろう。双葉町を走る3人のランナーを取材すると、それぞれ迷いや悩み、そして怖さを抱えていることを明かしてくれた。

声優、桜庭梨那さん「怖いな」

 3月上旬、東京都内のカフェに現れた双葉町出身の声優、桜庭梨那さん(25)は、悩みに沈んでいるように見えた。「こんな状況で本当に走っていいのか、今も考えている」。新型コロナウイルスの感染が収まらず、緊急事態宣言が再延長されたころだ。

 この1年、桜庭さんは悩み続けたという。コロナ禍は深刻さを増し、東京五輪への批判が高まっていたからだ。「五輪をやることに対して賛否両論ある。聖火ランナーとして走ったら自分にはどんな感情が向けられるのか。怖いなって気持ちはあります」

 2011年3月11日。あの日は双葉中学校の卒業式だった。卒業証書を受け取った桜庭さんは、家族とお祝いに向かう車中で地震に遭った。町内の祖父母の家に避難し、燃えながら津波に流される民家をテレビで見ながら、「映画のようだ」と思ったのを覚えている。

 町内全域に避難指示が出たのは翌12日朝だった。避難先の川俣町の体育館に、テレビが1台置かれていた。原発事故のニュースを見ていた高齢の男性が「もう終わりだ」とつぶやいたとき、こんな考えが桜庭さんの頭をよぎった。もしかしたら、双葉町が地図から消えてしまうのかもしれない――。

 桜庭さんは群馬県での避難生活を経て、福島県いわき市に移った。高校卒業後、一時は公務員として就職したが、声優の夢を断ちきれず、上京して都内の養成所に入った。「桜庭」という芸名は、故郷に咲き誇っていた大好きな桜から取った。

 夢を追いかける一方、ずっと双葉町のために何かしたいと考えていた。ただ、何ができるのかは分からなかった。テレビで震災のニュースを見ると、ついチャンネルを変えた。何となく、気持ちが定まっていなかった。

 変わったのは3年ほど前、琴奏者になった双葉中の同級生がチャリティーコンサートを開いたのがきっかけだった。「こういうやり方があるんだ」。自身も声優として何かできるはず。一歩、踏み出してみた。福島県内のカフェで開かれたイベントの司会。双葉町を描いたドキュメンタリー映画への声の出演。自身の夢と故郷が少しずつ、つながり始めた。そして19年、聖火ランナーに選ばれた。「『復興したよ、やったね』だけじゃなくて、『今も頑張っているよ』『まだ手も付けられていないところもあるよ』というのも見てほしい」。聖火リレーは、地図から消えると思っていた町を、世界に思い出してもらう機会になると思った。

「自分も辞退すべきか…」

 ところが…

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