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将軍綱吉(つなよし)の生類憐(しょうるいあわ)れみの令により江戸の町犬や野良犬を収容した幕府の中野犬小屋には、たちまち10万匹の犬が集められたという。犬1匹に1日白米3合が与えられ、その総量は1日300石を上回ったそうな▲それで犬は幸せになったかといえば、そうでもなさそうだ。「山野を走ることもなく、小屋に詰められ、白米を食べて……病犬死犬はおびただしく、穴に埋められた」とは当時の文書だ。1年で半分近く数が減ったらしい(仁科邦男(にしな・くにお)著「『生類憐みの令』の真実」)▲人と共生するという生存戦略が今日の繁栄をもたらした犬や猫だが、それによって人の身勝手や勘違いの被害を甘受せねばならない運命も負った。その理不尽(りふじん)をただせるのは、むろん人間の側だけだ▲犬猫の繁殖業者やペットショップのケージ(おり)の大きさや飼育状態の新たな基準を示す環境省令が6月から段階的に施行されるという。たとえば猫のケージは縦と横が体長の各2倍と1・5倍、高さは体高の3倍以上が求められる▲従業員1人あたりの飼育数や、6歳以下という交配年齢制限も設けたこの省令である。狭いケージや劣悪な衛生状態での飼育は今まで繰り返し問題となってきた。今度は規制基準を数値で示して、違反業者の退場を促せるようにする▲これで犬や猫が幸せになればいいが、新たな規制で経営を断念する業者の廃業により行き場を失う犬猫が出る恐れもある。人に愛される幸せの裏に潜む底知れない怖さを知る「物言わぬ古い友」たちだ。