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労働力不足から外国人受け入れを広げる日本。ですが、その子どもたちの権利は十分に守られていません。解決の糸口は。

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市立中が日本語教室を「出席」扱いに ベトナム人生徒が高校進学

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「トレボルNIHONGO教室」で勉強を教わるグエン・ディン・ミン・カンさん(左)=横浜市金沢区で2020年11月5日、北山夏帆撮影 拡大
「トレボルNIHONGO教室」で勉強を教わるグエン・ディン・ミン・カンさん(左)=横浜市金沢区で2020年11月5日、北山夏帆撮影

 親が外国籍などの「外国につながる生徒」の学習を支援するため、横浜市立保土ケ谷中学校(生徒数913人)が2020年度、ベトナム人の男子生徒が民間の日本語教室で学んだ時間を出席時間として扱った。文部科学省によると「全国でも例のない先進的な取り組み」で、男子生徒は最終学年を「皆勤」し、今春、第1志望の高校に進学することができた。

 外国につながる子どもに関しては、先に来日した親に呼び寄せられ、日本語の理解が不十分なまま学校に通っているケースも少なくない。日本語の授業についていけずに学力が低下しやすいことに加え、学校生活にもなじめず不登校につながることもある。

 取り組みの対象となったのは、3年生のグエン・ディン・ミン・カンさん(15)。カンさんは、日本で働いていた義父の筒井宏輔さん(47)にベトナム人の母とともに呼び寄せられ、19年8月に来日。保土ケ谷中に転入したが、それまで日本語を使う機会がほとんどなかったため、学校で飛び交う言葉が全く分からないことに戸惑い、登校に不安を覚えるようになった。

 「このままだと(カンさんが)授業に置いていかれてしまう」。危機感を持った筒井さんは日本語だけでなく教科教育も受けられる施設を探す中で、同年12月に日本語教育提供会社「NIHONGO」(東京都渋谷区)が運営する日本語教室「トレボルNIHONGO教室」の存在を知った。

「トレボルNIHONGO教室」で勉強するグエン・ディン・ミン・カンさんのノート。英単語の意味を日本語で書いていた=横浜市金沢区で2020年11月5日、北山夏帆撮影 拡大
「トレボルNIHONGO教室」で勉強するグエン・ディン・ミン・カンさんのノート。英単語の意味を日本語で書いていた=横浜市金沢区で2020年11月5日、北山夏帆撮影

 「トレボル」はスペイン語で「四つ葉のクローバー」の意味。外国につながる子どもが日本語を覚えることで社会とつながり、みんなが幸せになれるようにとの希望が込められている。理解度に合わせるため講座は少人数で、課題の量や難易度も調整している。

不登校ガイドラインを適用

 カンさんは20年1月から横浜市金沢区のトレボルで週2日、午前9時半から午後3時まで日本語を学んだ。授業の補習も受けられるため、みるみるうちに日本語や教科の理解が進んだという。「ただ『読める』だけじゃなく、少しずつ意味が分かるようになってきた」。書ける漢字の数も増え、勉強に対して積極的な姿勢が見られるようになった。筒井さんは保土ケ谷中に「トレボルの授業時間を出席時間として扱ってもらえないか」と相談を持ちかけた。

 相談を受けた保土ケ谷中は20年4月、「日本語教室で学んだことで、勉強にも良い影響が表れている」と判断し、トレボルと協定を結んで講座を出席時間と扱うことにした。窪田智明校長は「自立に向けて何が必要か思案したとき、日本語を学べる場所があることは彼にとってプラスになると考えた」と説明する。

 今回の取り組みで適用されたのは、不登校児童が通うフリースクールなどの民間教育施設での出席取り扱いについて市が定めているガイドラインだ。これは文科省が19年10月、不登校児童の教育機会を確保するために全国に通知した、民間施設での授業を校長の裁量で出席時間として扱うことを認める指針「不登校児童生徒への支援の在り方について」に基づいている。

日本語指導が必要な公立中学校の生徒数 拡大
日本語指導が必要な公立中学校の生徒数

 文科省の指針の対象は主に日本人が想定されていたが、全国の公立中学には1万2331人の「日本語指導が必要な生徒」(18年5月時点)がおり、外国につながる子どもにも適用が進めば、日本語指導の支援の幅が広がる。文科省児童生徒課は保土ケ谷中の運用について「校長が不登校と判断し、(日本語教室で)円滑な学校復帰のための指導が行われていれば、(対象が外国につながる子どもでも)問題ない」との見解を示す。

 カンさんは2月、「在県外国人特別募集」の枠で第1志望の横浜市の市立高校に合格。トレボルの授業で68日分が出席扱いになり、欠席はなかった。5万円の月謝は負担だが、筒井さんはカンさんが勉強にも日本での生活にも前向きになれたことに感謝している。

 「(日本に来てまだ1年半で)将来の夢はまだ分からないけど、今は目の前の勉強をがんばりたい」。カンさんは、そう言って目を輝かせた。【池田直】

外国につながる子ども

 国籍は日本だが以前は外国籍だった子ども、両親やどちらかの親が外国籍の子ども――のようにさまざまな形で外国につながる子どもたちを総括した呼称。外国人が多く住む横浜市などが用いており、近年は文部科学省も使用している。「外国にルーツを持つ子ども」と呼ばれることもある。

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