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中村東蔵さん「絵本太功記」を語る 女形それぞれに見せ場=完全版

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インタビューに答える中村東蔵さん=東京都中央区で2021年3月12日、宮本明登撮影
インタビューに答える中村東蔵さん=東京都中央区で2021年3月12日、宮本明登撮影

 明智光秀が織田信長を討った「本能寺の変」を題材にした「絵本太功記(たいこうき)」は、人形浄瑠璃初演と同年の寛政11(1799)年に歌舞伎化された。東京・歌舞伎座の「四月大歌舞伎」(4月3~28日)第2部で上演される十段目「尼ケ崎閑居の場」は光秀一家の悲劇を描く人気場面だ。光秀の母皐月(さつき)を演じる中村東蔵さんに話をうかがった。

息絶える前のせりふ鋭く

 光秀は武智光秀、信長は小田春永、羽柴秀吉は真柴久吉と名を変えられている。光秀以外の主な登場人物は皐月、光秀の妻操、嫡男十次郎、その婚約者初菊、旅の僧に姿をやつした久吉と家臣の佐藤正清(加藤清正)。

 光秀の主殺しを恥じ、家を出てひとり住まいをする皐月を操、十次郎、初菊が訪ねる。母と祖母が見守る中、初菊と祝言を挙げた十次郎は久吉との戦いに出陣。光秀は皐月の家に一夜の宿を求めた旅の僧の正体を久吉と見て殺害を謀るが、誤って皐月を刺す。そこへ深手を負った十次郎が戻り、味方の劣勢を伝える。皐月と十次郎は息絶える。家の周囲は久吉軍に囲まれていた。

 皐月は気丈だ。自らすすんで久吉の身代わりとなり、竹やりで刺され、息も絶え絶えになりながらも光秀をなじる。そのせりふが鋭い。「系図正しきわが家を、逆賊非道の名にけがす、不孝者とも悪人とも、たとえがたなき人非人……」。

 「母親として世間に顔向けできない、という気持ちが強いんだなと感じます。今でもありますよね。いい年をした息子が悪事に手を染めてしまい、親が謝罪する、みたいなことが。今度はその思いを強く出してみようかと考えています。皐月は自分が刺されたことで、主殺しの罪を光秀に思い知らせようとします」と東蔵さん。

 「皐月が刺されたあとに、帰ってきた十次郎の見せ場があります。その間、皐月はじっとしていなければなりません。本当はいけないのかもしれませんが、十次郎の話に耳を傾けて皐月の感情になり、目立たないていどに少し芝居をして自分で楽しんでいます」

各年代の女形それぞれに見せ場

 母と息子の断末魔を前に、さしもの光秀も落涙するくだりは、「大落とし」と呼ばれる。「母はもちろん、妻の操も嘆き、初菊も十次郎の死を悲しみ、周囲がどんどん光秀を泣かすように持っていきます」

 若女形の初菊から始まり、立女形の操、老女形の皐月と、年代に応じた役が女形にあり、それぞれに見せ場が用意されているのが、魅力のひとつだ。

 文楽で名人と呼ばれた太夫の豊竹山城少掾(しょうじょう)も「老母が横死(おうし)を遂げ、十次郎が悲惨な討死をし、操が半狂乱に口説き立てて夫を諫(いさ)め、若い花嫁の初菊が十次郎の死骸に取りすがって泣き叫ぶといった暗澹(あんたん)たる悲劇は、すべて四方八方から光秀の気持ちを責めつけるための手段なのでございます」(『文楽の鑑賞』山口広一著)と語っている。

 東蔵さんの皐月初演は2003年。十二代市川團十郎の光秀であった。「初演では(二代中村)又五郎のおじさんに教わりました。刺されたあとに光秀ににじり寄る方もいるし、全然動かない方もいます。動いたほうが強い訴えかけが出るかと思い、今回もそうするつもりですが、動かない方のを見て、こういうのもおもしろいなと思うこともあります」

 中村吉右衛門さんの光秀でも皐月をつとめ、今回は中村芝翫さんの光秀となる。

 「芝居には投げ手と受け手があります。光秀によって皐月も変わります」。それが芝居の楽しさだ。

 操は中村魁春さん、久吉は中村扇雀さん、十次郎は尾上菊之助さん、初菊は中村梅枝さん、正清は坂東彌十郎さんが演じる。

重要な役割果たす義太夫物の老け役

 皐月もそ…

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