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「残しておけない」障害ある娘をあやめた73歳母 裁判員の判断は

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親子が暮らしたマンションの周辺。母子は、近所付き合いがほとんどなかったという=埼玉県内で2021年1月13日午後4時44分、中川友希撮影
親子が暮らしたマンションの周辺。母子は、近所付き合いがほとんどなかったという=埼玉県内で2021年1月13日午後4時44分、中川友希撮影

 さいたま地裁は2020年12月、知的障害や発達障害がある娘(当時48歳)を殺害したとして、殺人罪に問われた女性(73)に実刑判決を言い渡した。子の将来に不安を抱いていた女性は自身の心身の不調をきっかけに思い詰め、孤立と不安を深めていった。悲惨な結末を食い止めることはできなかったのか。事件の経緯をたどり、「親なき後」に備えて障害のある子どもの親ができることを考えた。【中川友希】

「殺そうと思ったんじゃない」

 小柄な女性が、さいたま地裁の裁判員裁判で被告席に腰掛けていた。灰色のショートヘアに銀縁めがねをかけ、グレーのパーカにスエット姿。被告席に向かう際は腰を大きくかがめて、小股で一歩ずつ、ゆっくりと歩いていた。

 「いつ殺そうと思ったんですか」。弁護士の問いに、女性は泣き崩れた。「殺そうと思ったんじゃなくて、いつも娘を残しておけないと思っていたので……」

 19年秋のある日、娘は自分が勧めた睡眠薬を飲み、深い眠りについていた。女性はその首にこたつの電気コードを巻き付け、力を入れた。続いて包丁を取り出し、自分の手首を切ったが、死ねない。受話器を取り、110番した。

 娘を殺してしまいました。一緒に死のうと思ったんですけど、なかなか死にきれなくて――。

病気で暗転した暮らし

 女性は明るくて前向きな性格だった。料理が好きで食材を買いに他県まで行ったり、…

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