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第103回全国高校野球選手権

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亡き祖母に誓った「優勝」 中京大中京・畔柳投手 選抜高校野球

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1、2回戦で好投した中京大中京の畔柳亨丞投手=阪神甲子園球場で2021年3月27日、吉田航太撮影 拡大
1、2回戦で好投した中京大中京の畔柳亨丞投手=阪神甲子園球場で2021年3月27日、吉田航太撮影

 最速151キロの球速を誇る第93回選抜高校野球大会屈指の好投手、中京大中京(愛知)のエース畔柳亨丞(くろやなぎきょうすけ)投手(3年)には、いつもその投球を見守ってくれる人がいる。25日の1回戦は専大松戸(千葉)を完封、27日の2回戦の常総学院(茨城)戦は7回1失点と計241球。プロ注目の右腕の好投は、アルプス席からの静かなまなざしが支えていた。

 祖母の路子さん。2年前に72歳で亡くなった。センバツには父がアルプススタンドに遺影を持って来てくれている。ピッチングの原点は祖母と二人三脚で築いてきた。中学時代から路子さんが打席に立ち投球練習、打撃練習ではトスをしてくれた。二人の約束は「甲子園で優勝」。力強い投球は年を重ねるごとに力を増し、「誰よりも応援してくれたおばあちゃんに、勝つことで恩返しをしたい」。そう誓って甲子園のマウンドに立つ。

 中学時代、帰宅するといつも一緒に近所のグラウンドへ。野球経験がなく、当時70歳近い祖母が、打席に立ってくれた。「これで終わっていいの?」。体力づくりのためのランニングで、気が進まない日には優しくも厳しい言葉が飛んだ。「おばあちゃんの一言で頑張ることができたし、今の自分の成長につながっている」と振り返る。

中京大中京・畔柳投手の祖母・路子さん=畔柳投手の父貴宏さん提供 拡大
中京大中京・畔柳投手の祖母・路子さん=畔柳投手の父貴宏さん提供

 幼い頃から一緒に遊びに出かけ、よく話をしてくれた。スランプのとき、話を聞いてくれるのも祖母の路子さんだ。「家族の誰よりも自分に優しくしてくれた」と言うほど、大好きだった。

 そんな路子さんと約束した三つの目標がある。U15(15歳以下)日本代表のメンバーに入ること。甲子園での優勝。そしてプロ野球選手になることだ。一つずつ挑んでいった。中学時代に2018年8月のワールドカップ(W杯)選考のトライアウトに臨み、出場。開幕戦の先発を任され、世界の舞台に立った。次は強豪の中京大中京に入学して甲子園を狙う。

 二つ目の目標に踏み出したとき、路子さんにがんが見つかった。同年10月、末期の大腸がんと判明。高校への進学を待たずして、亡くなった。「練習に付き合ってくれた時も、おなかが痛いと言っていた。自分のことを優先してやってくれていたのかな」

 大きな悲しみと喪失感。「身内を亡くし、初めて人の大切さが分かった」。それまで、自分のためにやってきた野球が「誰かのため」という意識へと変わった。そして今、「球速が注目されるが、チームを勝たせるのが自分の役目」と、チームのために全力を注ぐことを決意する。

 新チームになって挑んだ昨秋の公式戦では、10試合に登板し60奪三振、防御率0・72の活躍。1月末、センバツへの出場が決まると、路子さんの仏壇に手を合わせた。「優勝できるように頑張るよ」

 そして臨んだ甲子園。初戦に向かうバスの中で「絶対甲子園で優勝する。その夢のスタートラインに立つよ」と心の中で伝えた。1、2回戦と先発し、相手につけいるすきも与えない好投を見せた。二つ目の約束を叶えるために着実に歩みを進めてきた。29日は4強入りを懸け東海大菅生(東京)と対戦する。約束を果たすまであと3勝。その先には、三つ目の目標、プロ入りを見据える。いつも自分を応援してくれた祖母へ。恩返しとして「絶対にかなえたい」夢がある。【酒井志帆】

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