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東日本大震災

2011年3月11日に発生した東日本大震災。復興の様子や課題、人々の移ろいを取り上げます。

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「私たちも、もがき続けてきた」震災避難者を支援する人の苦悩

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LINEで京都に避難してきた被災者の相談に返信する大塚茜さん=京都市で2021年3月3日(大塚さん提供) 拡大
LINEで京都に避難してきた被災者の相談に返信する大塚茜さん=京都市で2021年3月3日(大塚さん提供)

 東日本大震災からの10年は、被災者にとってはもちろん、支援者にとっても悩んだり迷ったりの連続だった。被災地から避難してきた子育て世代が語り合うサロンを運営する京都市のNPO法人「和(なごみ)」理事の大塚茜さん(42)は「私たちも、もがき続けてきた」と振り返る。支援者の苦悩とは――。

 2011年3月11日、骨折のため京都市で入院していた大塚さんは病室で、被災者が発信するツイッターを見ていた。津波で大きな被害を受けた被災地の写真や、助けを求める声があふれていた。「何かしなければ」との思いが募った。

 勤めていた保育園の保護者におむつや古着の提供を呼びかけ、ツイッターで知り合った現地のボランティアを通じて被災地に送った。被災者が何を求めているのかを知るため、7月には宮城県石巻市を訪問。生々しい津波の傷痕と、寺に整然と並べられた犠牲者の200個を超える骨つぼを見て、継続的な支援活動に携わろうと決めた。

 京都には震災後、東京電力福島第1原発事故のため被災地から多くの人が避難してきた。中でも、幼い子どもを持つ母親は家の中で孤立しがちで、支援が必要だと感じた。

 10月に避難者が話し合ったり、情報交換したりできるサロンをスタート。すぐに20~30人の母親たちが集まり、地震発生時や避難生活のことを語り合うようになった。福島県南相馬市から京都府綾部市に避難した井上美和子さん(51)はサロンに救われたという。夫と2人の娘と共に避難生活を始めて数カ月後、大塚さんの企画で京都に避難していた別の被災者らと鍋を囲んだ。「最初はとにかくさみしかったが、自分と同じ方言を聞きながらの食事は本当にリラックスできた」と振り返る。

 失敗もあった。子育て中の女性が働ける場を作ろうと13年9月に飲食店「キッチンNagomi」を京都市下京区にオープンさせ、16人を採用した。ただ回転率などを考慮して1人あたりのシフトを少なくした結果、働く人が生活に十分な収入を得られなくなり、方針を転換。飲食業に興味がある人などに限って店を任せ、他の人には別のアルバイト先を紹介するなどした。

大塚さんの支援を受けた井上美和子さん。避難生活や古里への思いなどを自らつづり、福島の言葉で朗読する取り組みをしている=京都市上京区で2021年2月27日午後2時7分、柳澤一男撮影 拡大
大塚さんの支援を受けた井上美和子さん。避難生活や古里への思いなどを自らつづり、福島の言葉で朗読する取り組みをしている=京都市上京区で2021年2月27日午後2時7分、柳澤一男撮影

 避難生活が長期化し、避難している人の悩みは多様化している。夫婦関係、経済的な不安、子どもの進学……。放射能への不安があるため帰れないことをなかなか周囲に理解してもらえず、なかには「避難してきたことを周囲に知られたくない」「言葉がなまっていて(福島出身と分かるのが)心配だ」などと打ち明けた人もいた。

 相談は大塚さんが一手に引き受けているが、最近は健康問題や「終活」などの悩みも増加。ケアマネジャーを紹介したり、病院での身元引受人になったり、被災者の葬儀を請け負ったこともある。

 これまで寄せられた相談数は記録を取り始めた17年度以降で延べ約850件。新型コロナウイルスの影響で、20年春以降は直接面談でなく、電話や無料通信アプリ「LINE」を使うようになったが数は変わらず、今年度は既に250件に上るという。

 この10年、被災者と向き合いながら悩み続けてきた。「物資や住宅の提供、生活保護の申請などは足りないものを補う支援。でもそれだけでは埋められない部分がある」。被災したことだけでなく、その後の人間関係などで精神的に苦しんでいる被災者はいまだに多い。「生きる意味があるのか」。「事故がなかった時の福島に戻りたい」。長く付き合ってきた男性が自殺未遂をしたと聞いたときには、無力感で天を仰いだ。

 「被災した人は、それぞれ苦痛や葛藤を心の中に抱えている。一人一人としっかり付き合い、分かち合うという視点がなければ、本当の支援につながらない」

 震災10年は終わりではない。癒えることのない喪失感と共に生きていく人たちを、これからも支え、見届けたい。今、そう考えている。【柳澤一男】

個々の実情に応じた支援を

 復興庁が都道府県の報告を基に集計した東日本大震災の避難者は今年2月8日現在で4万1241人。うち、福島県から県外への避難者は計2万8505人で、最多は東京都の2966人。近畿では、兵庫県が410人、大阪府が285人、京都府が231人――などとなっている。

 県外避難者への支援について、首都圏へ避難した被災者の実態を調査している東洋大の加山弾教授(地域福祉)は「行政や社会福祉協議会などによるサロン活動、戸別訪問などは、避難者の心理的なケアを考えるうえで重要。今後も続けていく必要があり、個々の実情に応じた支援も考えていかなければならない」と指摘する。

 現在は避難者が支援を拒んだり、孤立に陥りアルコール依存症になったりするケースも目立つという。また、年を重ねたことで健康や介護、経済的な問題などに悩む避難者も多いといい、「ソーシャルワーカーらによる粘り強い戸別訪問が必要。デリケートな問題も内包しており、個々の避難者と向き合って支援をしていくことが求められる」と話す。【柳澤一男】

【東日本大震災】

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