連載

今月のイチ盤

新譜の中から選りすぐりの「旬のディスク」3枚を、音楽ジャーナリスト・深瀬満さんが紹介します。

連載一覧

今月のイチ盤

ヒラリー・ハーン、愛する「パリ」で結ばれた縁を珠玉のコンセプトアルバムで紡ぐ

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷

 今月から、新企画「今月のイチ盤」がスタートします。新譜の中からよりすぐりの3枚をご紹介するこの企画、筆者は音楽ジャーナリストとして活躍する深瀬満さんが務めます。ディスク評やオーディオ評も多く手掛ける深瀬さんならではの鋭いコメントとともに、〝旬〟のディスクをどうぞお楽しみください。

<BEST1>「パリ」ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)

ミッコ・フランク指揮/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

DG(ユニバーサルミュージック) UCCG45003

<BEST2> ハイドン:弦楽四重奏曲第78番「日の出」、第79番「ラルゴ」、第80番 キアロスクーロ四重奏団

BIS(キングインターナショナル)KKC6320

<BEST3>「BACH on Guitar 3 6つの無伴奏チェロ組曲vol.1」益田正洋(ギター)

フォンテック FOCD9845

 今月から当サイトで、魅力的な新譜をご紹介することになった。ベスト3形式で、毎月リリースされるCDやSACDを中心に、時には注目の映像作品も取り上げていきたい。

 

 今回のトップには、ヒラリー・ハーンが久々に出したCD「パリ」を挙げる。彼女とパリのつながりを起点に、ショーソン「詩曲」、プロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」、そしてラウタヴァーラの遺作となった「2つのセレナード」が選ばれた。実に洒落(しゃれ)た選曲なのに加え、音楽的な充足度が高く、みごとなコンセプト・アルバムになった。

 10代からパリが好きだったというヒラリーは、長じてゲスト・アパートを現地で借りるようになり、街との一体感を強めていく。2018〜19シーズンにはフランス国立放送フィルのアーティスト・イン・レジデンスに迎えられ、本作に結実した。

 繊細で鋭敏なエスプリの濃いショーソン、モダンでアヴァンギャルドな感覚が炸裂(さくれつ)するプロコフィエフは、いかにも才気煥発(かんぱつ)なヒラリーらしい快演。指揮のミッコ・フランクと作曲委嘱に関わったラウタヴァーラの遺作は透明な叙情が通う逸品で、愛惜のこもった独奏が胸にしみる。

 次に挙げたいのが、成長著しいヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァを中心としたキアロスクーロ四重奏団による、ハイドンの「エルデーディ四重奏曲集」後編だ。ピリオド楽器のニュアンスと陰影ゆたかな響きをフルに生かし、新鮮な驚きを満載した表現意欲のほとばしりに圧倒される。有名な「皇帝」や「五度」を含む前編の勢いを駆って、「日の出」や「ラルゴ」を収める後編も好調そのものだ。

 そして3点目。日本のベテラン・ギタリスト、益田正洋が、デビュー30周年の節目に問うたバッハ「無伴奏チェロ組曲」のギター編曲版(第1〜3番)も心に残る力作だ。ギターがより良く響く調性へ慎重に移調して、慈しむように原曲と対峙(たいじ)。クラシック・ギター1本のみで築かれる親密な音世界に、バッハの小宇宙が味わい深く浮かびあがる。これは奏者の到達した円熟と度量ゆえでもあろう。

筆者プロフィル

 深瀬 満(ふかせ みちる) 音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集