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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「映画史上最も有名な階段」とは…

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 「映画史上最も有名な階段」とはウクライナのオデッサ港と市街を結ぶ大階段をいう。映画「戦艦ポチョムキン」で、子どもを含む民衆が皇帝の軍隊に虐殺された階段といえば映画ファンならお分かりだろう▲この1925年製作のソ連映画で、エイゼンシュテイン監督は映像のつなぎ方で観客の連想を呼び起こすモンタージュ理論を確立した。この手法を駆使した民衆銃撃場面は観客に皇帝への怒りを燃え立たせる画期的なシーンとなった▲現実のオデッサの階段で虐殺事件はなく、シーンは「血の日曜日」事件などから想を得た創作だった。だが、軍が非武装の市民を殺害する非道を際立たせた映像技術は、共産主義の宣伝を超えてその後の映像文化に大きな影響を与える▲こちらはまぎれもない軍の兵士が市民に向けて連射する姿や、銃撃された女性や子どもの映像が飛び交う今のミャンマーである。先日の国軍記念日には114人が死亡、クーデター以来の死者は7歳の女児を含めて420人を超えた▲国軍を名乗る組織が非武装の国民を攻撃する行為に、どんな正当性もありえないのが21世紀の文明である。世界12カ国の軍や自衛隊の制服トップが市民殺害を非難した共同声明も、国防のプロの倫理にもとる暴虐を許せぬからだろう▲過去にも民衆殺りくのあるミャンマー軍政だが、今日ではその非道を示すおびただしい映像が内外の市民の記憶に刻まれていく。今の国軍指導者が未来永劫(みらいえいごう)背負うべき人々の心の中の「虐殺の階段」である。

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