明治の皆既日食記録、米大で発見 不明だった市民の観測分も

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現在の福島県南相馬市原町区で描かれた皆既日食のスケッチ=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library. 拡大
現在の福島県南相馬市原町区で描かれた皆既日食のスケッチ=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library.

 1887(明治20)年8月19日に北関東から福島、新潟県にかけて観測できた皆既日食のスケッチなどの観測記録が、米エール大に保管されていた。その中には、市民に観測を呼びかけた当時の内務省が回収したものの、その後行方不明とされていた記録も含まれていた。川崎天文同好会(川崎市)副運営委員長の福島薫さん(73)が発見し、3月17日に日本天文学会春季年会で発表した。

行方不明だった皆既日食の観測記録を発見した福島薫さん=本人提供 拡大
行方不明だった皆既日食の観測記録を発見した福島薫さん=本人提供

 この皆既日食では、米アマースト大のデビッド・P・トッド教授を隊長とする米国の遠征チームが、小峰城跡(福島県白河市)で大規模な観測態勢を敷くなど、国内では初めて近代的な科学観測がされた。日本の大学や内務省地理局(国土地理院の前身)も各地に観測隊を派遣したほか、文部省や内務省が一般市民に観測してスケッチすることなどを呼びかけた。

 市民の観測記録は、文部省が回収したものが国立天文台(東京都三鷹市)に保管されている。しかし、内務省が回収した記録の行方は分かっておらず、失われたと考えられてきた。

 福島さんは数年前、天文雑誌でトッド隊の観測のことを知り、市民による日食観測に興味を持って調べ始めた。トッド教授の遺族が寄贈した資料がエール大図書館にあることを知り、閲覧を大学へ電子メールで依頼。すると、未公開の資料を撮影した画像データの提供を受けた。

現在の福島県本宮市で観測された皆既日食のスケッチ=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library. 拡大
現在の福島県本宮市で観測された皆既日食のスケッチ=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library.

 膨大な資料を約1年かかって分析したところ、内務省の回収分に、その他のルートでトッド教授が入手した分を加えたスケッチ83点や皆既時間の観測記録105点などが見つかった。

 皆既日食の当日、トッド教授のいた白河市は天気が悪かった。それでも、スケッチは10県から寄せられていた。福島県本宮村(現在の本宮市)でのスケッチには、めまぐるしく変わる当日の天気が記されており、四方八方へ伸びる太陽コロナ(太陽の外層大気)が描かれている。

現在の福島県会津若松市で15歳と12歳の兄弟がスケッチした皆既日食。雲が多く、コロナは一部しか見えなかった=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library. 拡大
現在の福島県会津若松市で15歳と12歳の兄弟がスケッチした皆既日食。雲が多く、コロナは一部しか見えなかった=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library.

 また、飯盛山(現在の同県会津若松市)のふもとでは、15歳の中学生と12歳の小学生の兄弟が観測していた。雲が多かったため、スケッチには太陽コロナは一部しか描かれていないが、天気や周囲の状況を詳細に記録した手紙が添付されている。

10代の兄弟のスケッチには、当日の天候や周囲の状況などを詳細に記した手紙もつけられていた=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library. 拡大
10代の兄弟のスケッチには、当日の天候や周囲の状況などを詳細に記した手紙もつけられていた=The David Peck Todd Papers (MS 496B). Manuscripts and Archives, Yale University Library.

 福島さんは「予想だにしていない発見で、本当に驚いた。名もなき人たちが残したスケッチが素晴らしい。こうした先人の努力を多くの人に知ってほしい」と話した。

 3月17日の学会発表を支援した渡部潤一・国立天文台副台長は「この日食の観測については、ずっと全貌が分からなかった。10代の若い人も含め、かなりの数の市民が呼応して観測に参加してくれたことが分かり、素直にうれしい」と話した。当時の写真技術では、淡い太陽コロナを撮影するのは難しかったため、肉眼で見たスケッチは貴重な観測データだったという。【西川拓】

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