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「飛び続けてきた鳥が、安心できる止まり木をやっと得たような気持ちですね」。落語家の柳家花緑さん(49)は、40歳を過ぎてから自身が発達障害だと知った時の気持ちをこう表現した。多様性を育み、発達障害の人が生きやすい社会は、どうすれば実現できるのか。花緑さんにその思いを聞いた。
軽快な語り口が人気の花緑さん。落語家で初の人間国宝となった故・五代目柳家小さんは祖父であり、師匠でもある。花緑さんも、戦後最年少の22歳で真打ちに昇進するなど輝かしい経歴を持つが、発達障害により人知れず苦労してきたのだという。
花緑さんは、発達障害の一つである読み書き障害(ディスレクシア)がある。識字障害とも呼ばれる。他にも注意欠陥多動性障害(ADHD)の傾向もある。花緑さんは、漢字やローマ字などをうまく認識できない。読み書きのなめらかさ、正確さに困難があり、文字を読んで内容を理解するのに時間がかかる。俳優のトム・クルーズさんや、映画監督のスティーブン・スピルバーグさんがディスレクシアだと明かしている。
それが原因と考えられる失敗談は山ほどある。20代のころ、出演依頼書に東京の「田町」と書かれていたのに、「町田」に行った。古典落語の演目「芝浜」をやった時のサイン会では「浜松やりました」と書いてしまった。
忘れ物も多かった。地方での独演会で、出演者の名前が書かれた「めくり」と、落語家が高座に上がるときにかける音楽である出囃子(でばやし)のCDを忘れた。「めくりは、『皆さんだって、めくりを見に来たわけじゃないですからね』って、ごまかしたけど、出囃子はそうはいかない。地元の人に三味線の民謡を弾いてもらって、出囃子として登場しました」
今では用事は全てメモ用紙に箇条書きにして、必要なものは前日までに全て玄関に置いておく。漢字にはルビをふり、電車の切符や依頼書は何度も確認する。しかし、そんな生活では脳が休まらず、ぐったりと疲れる。2年前に静岡県内の富士山を望む場所に一軒家を建てたが、環境を変えて考えすぎない日を設けるためでもあった。
本名は小林九、小学生のころのあだ名は「バカな小林くん」だ。今でこそ話のネタにしているが、小学1年生から落ちこぼれで…
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