来春から主に高校1年生が使う教科書の検定結果が発表された。
新しい学習指導要領に対応した初めての教科書となる。
多くの科目が新設され、生徒同士の議論や課題の探究を重視する内容となった。
「現代社会」に代わる「公共」は、政治や社会への関わり方を考える主権者教育に重点を置いた。
大学入試で女性の受験者が不利な扱いを受けていた問題を、男女平等に関する議論の題材にするなど、身近な事柄を通じて社会の課題を考えさせる工夫が凝らされている。
高校の授業は、教師による一方通行型の詰め込み教育と批判されてきた。そこから転換を図る方向性は間違っていない。
だが、課題も多い。
教えるべき知識の量はさほど減っていない。そのため、授業で議論に多くの時間が割かれるようになると、知識を定着させるために長時間の家庭学習が必要となる可能性がある。
生徒の負担が過重にならないよう配慮することが不可欠だ。
新たな必修科目や、探究型の学習への対応を求められる教師自身の負担も小さくない。
プログラミングなどを教える「情報Ⅰ」も必修となる。だが、免許を持つ教師は少なく、現在は専門外の教師が教えているケースが多いのが実情だ。
教師の指導力の差が広がれば、生徒がそのしわ寄せを受ける心配がある。できるだけ多くの教師が専門性を高められるように、研修の充実が欠かせない。
今回、「公共」や、近現代の日本史と世界史を統合した「歴史総合」では、領土問題に関する記述に多くの意見がつき、政府見解に基づく表現に修正された。
探究型の学習を重視するのなら、多様な意見を知ったうえで、議論を交わし、問題の本質を理解する過程を大事にすべきだろう。
大学入学共通テストも2025年から、新学習指導要領に応じた形で編成が変わる。
入試に備える点からも、生徒と教師が新しい教科書を十分に活用できるようにすることが大切だ。
国は自治体と連携し、探究型の学習を実現できる体制づくりを進めなければならない。