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余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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この図を家に張り…

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 この図を家に張り、子どもに見せれば疱瘡(ほうそう)(天然痘)よけになる――こんなふれ込みの絵に描かれていたのは何か。答えはラクダで、江戸時代に渡来したラクダの見せ物が大人気となった時によく売れた絵である▲当時、珍しい動物は「霊獣」と呼ばれ、見るだけで疫病よけの御利益(ごりやく)があるとされた。では、これもその一つか。昨年、和歌山市立博物館で展示された江戸時代後期のものとみられる「疫病除(よ)ケ」の版画にはマンボウが描かれていた▲「満方(まんぼう)」「壱(いち)丈(じょう)五(ご)尺(しゃく)四方(4・5メートル四方)」の説明と共に描かれているのは座布団にひれをつけたような魚だ。マンボウが疫病よけになるとの伝承はないが、やはり疫病を逃れたい庶民の切実な願いに応える「霊魚」と見られたのか▲先の緊急事態宣言解除の記者会見の際、政府の分科会の尾身茂(おみ・しげる)会長が繰り返し口にして人々の耳にこびりついた「まんぼう」だった。むろんコロナ対策で新設された「まん延防止等重点措置」を略したもので、魚とは何の関係もない▲こちらは緊急事態宣言の再々発令を避けたい政府が、宣言にいたらぬ段階で感染拡大地域に集中的対策を施せるよう設けた措置である。それが1カ月前に宣言解除となったばかりの大阪はじめ三つの府県で初適用されることになった▲収束せぬ感染と年度替わりの春とを考え合わせれば、ほぼ予想されたリバウンドである。伝えられる変異株の増加も心配だ。「まん防」が単なるおまじないの張り紙ではないところを示さねばならない。

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