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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「何とかして他人より先に聞こう」…

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 「何とかして他人より先に聞こう」――枕草子にこう記し、清(せい)少(しょう)納言(なごん)が寝ずに待ったのは、ホトトギスの初声(初鳴き)である。当時の人は初夏の訪れを告げるホトトギスの初声を競って聞こうとしたようだ▲さかのぼれば万葉集にも寝ずに初声を待つ歌があるが、時代下って江戸時代にはこんな川柳がある。「聞いたかと問えば食ったかと答える」。「目には青葉山ほととぎす初(はつ)鰹(がつお)」を踏まえた句だが、初声聞きを競う風潮がうかがえる▲まさしく日本人の季節の初物好きは千何百年もの年季が入っている。それももはやこれまでと思わせたのが昨秋の気象庁の生物季節観測の大幅縮小発表だった。だが一転、当面は観測を継続し、新体制作りがめざされることになった▲桜の開花やウグイスの初鳴きなど動植物57種を対象としてきた生物季節観測を植物6種の開花や紅黄葉などだけに絞るというのが先の発表である。ツバメの初見も、アブラゼミの初鳴きも動物はすべて今年から廃止されるはずだった▲新方針によれば、今後は環境省、国立環境研究所と協力し、市民参加の可能性も探りながら新たな観測網の構築をめざすという。背景には、過去70年近いデータの蓄積のある観測の断絶を惜しむ専門家や市民の強い存続要望があった▲ホトトギス人気に昔日(せきじつ)の面影はないが、類縁種のカッコウの初鳴きは観測対象になってきた。ご先祖たちの初物好きを振り返れば、国民的な規模の調査体制ができてもおかしくない新・生物季節観測である。

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