菅さんは苦労人? コロナ下の花見は 首相の“原点”上野を歩く

桜が咲いた。春らんまんのはずだけれど、気分は重い。緊急事態宣言は解除されたのに、コロナ禍はさっぱり収束しない。春は来るのか、近いのか。東京・上野の桜の花びらに世相を透かしてみた。【吉井理記/デジタル報道センター】
人出も満開 規制に興ざめも
♪就職列車に揺られて着いた 遠いあの夜を思い出す 上野はおいらの心の駅だ……
北国から上京した集団就職の少年・少女を歌った「ああ上野駅」が世に出たのは前回の東京五輪の年、1964年のこと。高校を卒業したばかりの菅義偉首相、いや菅青年が故郷・秋田を後にし、上野駅に降り立つのはその3年後である。
横浜を地盤にした故小此木彦三郎・元建設相の秘書から横浜市議、そして国会議員、首相へと出世すごろくを歩んだ菅首相、親しい横浜の支援者には常々「私のふるさとは上野駅です」と話していた、ということも耳にした。
その上野駅を抜け、広小路口の「ああ上野駅」の歌碑を横目に上野公園にやって来たのは、桜が満開になったばかりの3月24日。緊急事態宣言が全面解除された3日後である。
平日なのに、あっちもこっちも人、人、人。後ろを歩く若者グループが「こんなに人がいるなんて聞いてねえよ」「来ている俺たちが言うのもアレだけど、コロナ第4波、まずいんじゃない?」とささやき合っている。
久しく見ない人のにぎわい。うれしいけど、人と人との距離が近くて、やっぱりリバウンドが怖い。落ち着かない。それに今年の上野公園、ちょっと異様な風景だ。
コロナ対策でロープやら何やらで規制線が張られ、決まったルートをぐるぐる、歩かされるようになっている。いつもなら、上野かいわいを寝場所にするホームレスの人たちが小銭稼ぎに花見の場所取りをしている道ばたには「宴席禁止」の紙が貼られ、ご丁寧に「歩きながらのお花見をお楽しみください」の看板まで。ごもっともだが、ちょっと無粋だなあ。
マスコミがあおっている?
とてもじゃないが、桜を愛(め)でつつ美酒を、という雰囲気ではない。実はカバンの中に、園内の茶店で買った缶ビールをしのばせていたのだが、どうにも人目が気になる。やむなく木陰でこっそりビールを開ける。傍らで、やはり缶酎ハイを飲んでいたスーツ姿のおじさんと目が合い、寂しくうなずき合う。近くの商社の経理担当らしい。
「本当は今日は休みなんだけど、会社がテレワークがメインで、ずっと家にいるのを妻も子供も嫌がって。といっても妻もテレワークなんですけど、俺には家にいてほしくないみたい。で、家にいられなくて、ちょっと花見酒、と思ったんだけど、これじゃあなあ……。飲んべえにはつらい春ですね」
スーツを着ていたのは「平日なのに、スーツ着ないのは落ち着かなくて……」とのこと。記者も最近は電話取材が増えてしまった。テレワークが増えれば、スーツを着る人も機会も減るんだなあ。
やはり人けの少ない木陰に座り込み、今はやりのアルコール度の高い「ストロング」タイプの缶酎ハイなどを飲んでいた20~30代らしき男女3人組も近くのサラリーマン。電子部品を売る会社の営業マン。
「去年より良くなっているけど、まだまだお金もモノも動かなくて。もう今日は仕事はおしまい。ヤケ酒、いやたまの息抜きで……」
「自粛自粛はもうムリ。リバウンド? しょうがないでしょ。だって国会議員だって飲み屋のハシゴしてんだから。結局ワクチン打つまでダメですよ。何で日本はこんなにワクチン遅いんすかね? 菅さん、何やっているんですかね」
「記者さんには悪いけど、マスコミがコロナあお…
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