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出生前診断の新制度 自己決定を支える運用に

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 妊婦の血液を使って行う胎児の新型出生前診断(NIPT)について、新たな認証制度が導入されることになった。

 これまでとの大きな違いは、国が関与することだ。厚生労働省も参加する運営委員会が新設され、実施施設や検査機関の認証基準の策定と運用に当たる。

 NIPTをめぐっては、2013年に日本産科婦人科学会が指針を作り、認定制度を設けた。しかし、指針を無視して検査を提供する無認定施設が急増した。

 胎児の出生前診断は人工妊娠中絶につながることがあり、社会的・倫理的課題をはらむ。学会の自主規制だけに任せることには限界があり、国が関与する体制ができることは評価したい。

 NIPTは妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを分析し、ダウン症など3種類の染色体異常の有無を推定する検査だ。これだけで正確な判定はできず、確定診断には羊水検査が必要となる。

 運用に当たって重要なのは、カップルの自己決定を支える仕組みをうまく構築することだ。

 まず、正確な情報と適切なカウンセリングが欠かせない。そうしなければ、全員が検査しなくてはならないと思い込んだり、確定診断を経ずに人工妊娠中絶を選んでしまったりする恐れがある。

 検査そのものの説明は当然だが、障害がある子どもとの暮らしについても聞ける工夫をしてほしい。医療や福祉関係の支援体制を知らせることも不可欠だ。

 病気や障害のある人の存在を否定するような優生学的な考えを助長しないよう、細心の注意を払う必要もある。

 厚労省はこれまで出生前診断の情報提供に消極的だったが、今後は運営委がホームページで検査について情報を発信するという。その際にも、国が検査を勧めていると受け取られてはならない。

 生まれる子どもの遺伝情報を事前に調べる技術はNIPTだけではない。胎児の全染色体を対象にした検査や、受精卵の段階で遺伝子を調べる着床前診断なども提供されている。

 今後も生殖関連技術の開発や使用は進むだろう。国は法規制も視野に、包括的なルール作りを検討してほしい。

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