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余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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客席やロビーでの会話はダメ…

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 客席やロビーでの会話はダメ、かけ声や声援、歌舞伎の大向こうはもちろん禁止だ。コロナ禍による緊急事態宣言で劇場や寄席が一斉に閉じてから、はや1年。再開はしたものの制約は続く。その代わり、拍手する手にひときわ力がこもる▲こんなカーテンコールの光景なら増えていってほしい。先日、東京・下北沢の小劇場が静かな、けれども大きな拍手のうねりに包まれた。顔の横で両手をひらひらさせる手話の拍手だ▲手話通訳付きの公演で、聴覚に障害のある観客が多く訪れた。2時間近い芝居は3人の通訳者が交代で、場面によっては1人5役を「演じた」。せりふのニュアンスも的確に伝えなければならないから俳優並みに大変だろう▲手話以外にも舞台公演のバリアフリー化は進む。聴覚障害者には台本やポータブル字幕機の貸し出し、視覚障害者を対象に舞台装置や衣装などに触れてもらう事前ツアーもある。施行3年になる障害者文化芸術活動推進法が後押しする▲コロナがきっかけで開いた扉もある。生の舞台がままならないなか、オンライン配信によるバリアフリー観劇の可能性だ。2月に開設されたオンライン上の劇場「シアターフォーオール」では多言語字幕や音声ガイド、手話付きの公演が用意されている▲外出が困難な高齢者、芸術にとっつきにくさを感じている人。さまざまな障壁を取り払おうという試みだ。観客の多様性は創造の豊かさにもつながる。窮屈な社会を少し押し広げる。そんな力になればいい。

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