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「多くの人々は唯一のヨーロッパを望んでいる」
1923年。今から1世紀近くも前に「パン・ヨーロッパ(汎=はん=欧州)」と題した著作を発表し、欧州を一つに統合すべきだと訴えた思想家がいた。リヒャルト・クーデンホーフ・カレルギー。父は現在のオーストリアを拠点とするハプスブルク帝国から駐日代理公使として派遣された貴族のハインリヒ。母は東京・牛込の骨董(こっとう)商の娘だった青山光子。日本人の血が流れる欧州人で、青山栄次郎という日本名もある。その欧州統合論は当時国際的な反響を呼び、独仏など各国の政治指導者が現実の国際政治の場で議論するまでになった。
関税同盟や共通通貨による単一市場、仲裁裁判所の設置、共通の外交・安全保障政策――。「パン・ヨーロッパ」で示された構想は、いまの欧州連合(EU)の姿と多くが重なっている。
だが、ここ数年、クーデンホーフ・カレルギーは奇妙な形で注目されている。インターネット上でEUの寛容な移民・難民政策などを巡り、「カレルギー計画」と呼ばれる陰謀論が拡散しているためだ。陰謀論は「アジアやアフリカから大量の移民を流入させることで、欧州の人種を抹消するエリートたちの計画が進められている」と訴え、その立案者がクーデンホーフ・カレルギーだと指摘する。エリートらはこの計画で「混血によって作られた均質な奴隷を支配する」…
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