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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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実に1200年間も続いた古代オリンピックも…

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 実に1200年間も続いた古代オリンピックも末期にはいろいろ批判を浴びた。――そもそもゼウスが動物を集めて競わせれば、競走でも、格闘技でも人間は何一つ栄冠をとれない。人間の競技など無意味だ▲こう競技自体を否定する声までも上がった。だがイソップ物語のゼウスは自分の無力をなげく人間に言う。「お前には何より大きな力、理性を与えたではないか」。なるほど人は自分の無力や力の限界を自覚できる唯一の動物である▲近代五輪の標語「より速く、より高く、より強く」は、自らの限界を知り、それを超える高みをめざす人間ならではの営みを表す。自分とは何者なのかを絶えず更新していくスポーツは、時には途方もない奇跡を呼び起こすことがある▲白血病で療養していた競泳女子の池江璃花子(いけえ・りかこ)選手が日本選手権の100メートルバタフライで優勝、メドレーリレーでの東京五輪出場を決めた。驚異の復活である。昨年夏に競技復帰してから、わずか7カ月余で第一線へと戻って来たのだ▲「努力は必ず報われる」――涙ながらの言葉の背後には、闘病で15キロも体重を落としてのゼロからの再出発、自分の新たな限界との向かい合い、それを超えるための苦闘の日々が潜んでいよう。世界中が祝福したその「帰還」だった▲今も治療が続く池江選手にはくれぐれも無理をしてほしくない。ただコロナ禍に不祥事も加わり、何のための祭典か疑問も募る東京五輪だ。近代五輪の初心を改めて思い起こさせてくれたことに感謝したい。

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