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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「赤いリボンのハシダスガコ」…

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 「赤いリボンのハシダスガコ」。在京テレビ各局で有名だったという。売り込みの脚本を赤いリボンでとじたのは、プロデューサーの目に触れて読んでもらうためだった。松竹を退社してフリーになったころだ▲松竹では10年間、映画の脚本を書いたが、監督や俳優が勝手にせりふを削り、変えてしまうのが映画の現場であった。「女に脚本はムリだ」というパワハラにも耐えかねて異動を機に退職、テレビ局への脚本持ち込みを始めたという▲いざ30分ドラマが初めて採用されて心の底から感激したことがある。脚本に書いた通りに俳優がせりふをしゃべってくれたことだ。後年、大御所となった橋田寿賀子(はしだ・すがこ)さんがアドリブを一切許さずに脚本通りの演技を求めた原点という▲俳優泣かせといわれた長ぜりふも、映画の現場での脚本の軽視に自らが泣かされた経験の反作用だったと語っている。「女をばかにして威張っていた男たち」への恨みから生み出された「ホームドラマとはおしゃべりドラマ」だった▲戦後の山形で聞いた、売られた少女の最上川下りを繁栄の世にぶつけた「おしん」。テレビからホームドラマの消えた時代に大家族ドラマをロングランさせた「渡る世間は鬼ばかり」。時代の対極から時代をとらえたその作品である▲映画の観客でも、小説の読み手でもない。他ならぬテレビの視聴者の共感を求め、記し続けた脚本の長ぜりふだった。「ドラマは家庭の中にある」――それは遺言か、赤いリボンの若き誰かへのエールか。

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