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橋田寿賀子さん逝く 人間の本質ドラマで問う

 家族のありようを通して、人間の本質に迫るドラマを紡いだ。脚本家の橋田寿賀子さんが95歳で亡くなった。

 平均視聴率52・6%を記録したNHK連続テレビ小説「おしん」や、30年にわたって放送されたTBS系「渡る世間は鬼ばかり」など、数々のドラマで時代を画してきた。テレビ界に残した功績は計り知れない。

 10ページを超えることもある長いせりふで知られた。言葉を尽くして届けたかったのは、時代が移っても変わらない普遍的な人間の姿だ。その時代、時代でどう生きるべきかを問いかけた。

 1976年のNHK「となりの芝生」では、嫁しゅうとめ問題を通して崩壊した家族の悲劇を描いた。ホームドラマの殻を破り、女性の本音と葛藤をリアルなせりふで浮き彫りにした。

 昭和天皇と同じ年生まれが主人公の「おしん」は、貧困と戦争の時代を生き抜いてきた女性の一代記だ。放送が始まった83年は日本がバブル経済に突き進んでいたさなかだった。本当の豊かさとは何か、ドラマを通じて考えさせた。

 登場人物は人生に迷い、悩み、やり場のない怒りを覚える。きれい事だけではないドラマに、国境を超えて多くの視聴者が共感を覚えたに違いない。

 男性中心の放送界にあって、女性の視点に立った作品で異彩を放った。橋田さんならではの鋭い批評眼と卓越した筆力があったからこそであろう。

 戦争中に青春時代を送った橋田さんは、「戦争と平和」のテーマも追い続けた。

 TBS系「女たちの忠臣蔵」は討ち入りの陰で悲しみを抱える女性群像を描いた。そこに重ねたのは戦争で夫や息子を失った人々の姿だ。「人は人を殺してはいけない」と、殺人事件を扱わない姿勢を貫いた。

 コロナ下の家族の形を書きたいと話していたという。混迷する社会をどう映し出しただろうか。

 橋田さんの脚本家人生はテレビの黄金期と重なる。今や一人一人がスマートフォンで配信映像を視聴する時代だ。世代を問わずに支持される「国民的」ドラマは生まれにくい。橋田さんと共に、テレビ文化も曲がり角を迎えている。

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