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広がる大学独自のPCR検査 既存施設活用 信頼性向上へ課題は

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京都産業大で作業するPCR検査センター専属の検査技師=京都市北区の京都産業大で2021年3月1日午前10時36分、菅沼舞撮影 拡大
京都産業大で作業するPCR検査センター専属の検査技師=京都市北区の京都産業大で2021年3月1日午前10時36分、菅沼舞撮影

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、大学が自治体のPCR検査に協力したり、自前の検査センターを開設して学内向けの検査をしたりする取り組みが増えている。教育・研究機関の大学が検査までする負担は大きいが、「地域貢献」の一環として設備や知見、人材を活用。各大学の特徴や課題を探った。

非医療系の大学でも

京都産業大の検体取扱室。検査技師が身につける防護服や使い捨て手袋についても、着脱の手順などが細かく決められている=京都産業大提供 拡大
京都産業大の検体取扱室。検査技師が身につける防護服や使い捨て手袋についても、着脱の手順などが細かく決められている=京都産業大提供

 2020年10月、医学部や付属病院がない京都産業大(京都市北区)で、発熱などの症状がない学生や教職員らを対象とする「PCR検査センター」が稼働を始めた。京産大は学生数1万4000人超(20年5月1日現在)と規模が大きく、学生寮も複数ある。新型コロナ陽性者が多数確認されている近隣府県からの通勤・通学者も多いことから、無症状者からの感染拡大を防ぐために導入した。

 医師や看護師が常駐する保健管理センターに付属する形で整備。検体を採取する陰圧室や試薬調整室、測定室を設けた。島津製作所(同市)からデータ解析や技術面の協力を受け、専属の検査技師を置く。21年3月31日までに約1500件を検査し、陽性は7件だった。検査対象は出入り業者なども含む「幅広い大学関係者」だが、緊急時に京都府や京都市からの検査協力要請に応じられる体制作りを検討している。

 武庫川女子大(兵庫県西宮市)と安田女子大・短大(広島市)は20年秋から21年にかけ、学内向けのPCR検査を始めた。両大学とも薬学・看護・教育など学外での実習が必須の学部があり、実習受け入れ先からPCR検査を求められた場合に無料や安価で何度も検査を受けられる体制整備が望まれていた。既存の施設と機器を使い、生物実験などで操作に習熟した薬学部教員が検査する。

 安田女子大の担当者は「新たに施設を作って人を雇うのはハードルが高いが、元々ある施設と、教員の技術を有効活用したいと考えた」と話す。京都薬科大(京都市)も学外実習する学生限定の検査室を21年に開設。「衛生検査所」として市から認可を受け、薬剤師資格を持つ教員が担当する。

 医学部や病院を持たない大学としては他に、長崎国際大(長崎県佐世保市)が衛生検査所「NIU疾患検査センター」、沖縄科学技術大学院大(沖縄県恩納村)が「コントロールラボ」をそれぞれ開設し、地域の検査を一部受託している。

地域貢献として

 新型コロナ対応の最前線である保健所の業務が逼迫(ひっぱく)し、PCR検査数の少なさが問題となった20年5月、国は国公私立大や大学共同利用機関のPCR検査能力を調査。大学が休校中だったこともあり、「協力中」「貸し出し中」を含め検査に使えるリアルタイムPCR機器は約900台あった。文部科学省は補正予算で総額5億円を確保し、大学で検査を実施する場合は機器1台につき100万円、検査機関などに貸し出す場合は同50万円を補助し、検査協力を後押しした。

 「検査のプロである臨床検査技師を養成しており、技師も装置も備えていた。PCR検査にはうってつけの環境だった」。熊本大大学院生命科学研究部の大坪和明教授(臨床検査学)は、国の調査を経て熊本県と熊本市からの検査受託に至った経緯を振り返る。

武庫川女子大PCRセンターで使われている検体採取用カード。厚さ1ミリの特殊なスポンジに唾液をしみこませて乾燥させ測定する仕組みで、同大学で開発された新技術だ=兵庫県西宮市の武庫川女子大薬学部で2021年3月6日、菅沼舞撮影 拡大
武庫川女子大PCRセンターで使われている検体採取用カード。厚さ1ミリの特殊なスポンジに唾液をしみこませて乾燥させ測定する仕組みで、同大学で開発された新技術だ=兵庫県西宮市の武庫川女子大薬学部で2021年3月6日、菅沼舞撮影

 同研究部と同大学医学部保健学科では、検査技術や医療情報処理を専門に研究している。大坪教授らはその強みを生かし、紙とファクスで行われていた検査依頼・結果報告の流れを見直し、パスワード管理された電子ファイルによるシステムを構築。検体の取り違いを防ぐため、IDと名前によるダブルチェック方式とした。「地域貢献は重要なミッション。大学側から働きかけ、県市と保健所の協力が得られた。大学での検査には行政とうまく連携できる組織作りが重要」と大坪教授は話す。

武庫川女子大では検体は二次元コードで管理され、検査結果はアプリで知らされる=兵庫県西宮市の武庫川女子大薬学部で2021年3月6日、菅沼舞撮影 拡大
武庫川女子大では検体は二次元コードで管理され、検査結果はアプリで知らされる=兵庫県西宮市の武庫川女子大薬学部で2021年3月6日、菅沼舞撮影

 検査は同研究部の教員2人と大学院生7人が担当。うち8人が臨床検査技師の有資格者だ。熊本市は20年9月から中心市街地の飲食店の従業員向けに無料のPCR検査を実施しており、全国的に感染者数が急増した同年12月から21年1月は県市合わせて3000件超の検査を受託。21年度も続ける。大坪教授は「臨床検査技師の重要性がコロナ禍で一般に広く認識され、学生が使命感ややりがいを実感できる思わぬ教育効果もあった。臨床検査学を志望する学生も増えるのでは」と期待する。

自前のPCRセンターを開設した京都産業大では、試料の混同を防ぐため、印をつけるなどさまざまな工夫を重ねている=京都市北区の京都産業大で2021年3月1日午前10時51分、菅沼舞撮影 拡大
自前のPCRセンターを開設した京都産業大では、試料の混同を防ぐため、印をつけるなどさまざまな工夫を重ねている=京都市北区の京都産業大で2021年3月1日午前10時51分、菅沼舞撮影

 武庫川女子大は21年4月以降、検査対象を地域の介護施設や学校など学外に広げることを検討している。大学発の新技術で、厚さ約1ミリの特殊なスポンジに唾液をしみこませて測定する手法は検体の飛散や汚染のリスクが少なく、複数の人の検体を同時に分析する「プール方式」でも検体が希釈されないメリットもあるという。1日あたり最大500件を検査できる試算で、PCRセンター長を務める篠塚和正・薬学部長は「コロナ禍以前から地域貢献の一環として『おくすり相談会』を開いていた。PCR検査はその延長で、社会の要請に応じていく」と語る。

マンパワーなど課題も

 大学が自前でPCR検査をする場合、マンパワー確保の他、安全管理や個人情報の取り扱いなど検査全般の体制確立などが課題となる。

 京産大は全国的に払底する臨床検査技師を確保できず、開設以来2人の検査技師だけで業務をこなしてきた。検体の長期保存作業、汚染や検体の混同を防ぐための確認、検査データの解釈、消毒などに加え、陽性の場合は再検査や試薬の汚染調査も必要で、1日当たりの検査数は40件が限度だった。21年4月から技師を1人増やし、80件に増やすことを目指している。

 教員が検査を担う安田女子大はあらかじめ検体を集めて週に1回まとめて検査するが、教員の負担を考えると1回30件が限度という。広島県が県内居住者・就業者の全員を無料PCR検査の対象にすると決めたことから、同大学は4、5月は検査を休止する。同じく教員が検査する武庫川女子大は検体を二次元コードで管理し検査結果をアプリで知らせるなどICT(情報通信技術)を駆使して事務負担を軽減。作業の一部自動化も視野に入れる。

 また、熊本大の大坪教授が課題に挙げるのは検査の標準化だ。国立感染症研究所が一定のマニュアルを示しているが、試薬や機器、手順など細かい部分は大学により異なっているといい、「精度の管理も含め、信頼性を保証するためにも長期的には標準化が必要だ」と話す。【菅沼舞】

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